一方、「電子レンジで温めるとカリカリになっておいしい」と話すのは大柄な40代の男性。2、3日で1袋を平らげるという。
「太りやすい体質なのでパンは控えたほうがいいんだけど、安いし、これが主食になっています」
街のパン屋は倒産ラッシュ
耳は「1家族につき1袋まで」のルールにしているが、社長の小嶺忠さん(54)によると、すぐに売り切れてしまう日も多いという。5年ほど前までは、年金生活者とみられる高齢者や、明らかに生活に困っていそうな客が買い求めることが多かったが、最近は主婦やスーツ姿のサラリーマンも手に取るそうだ。
小嶺さんは日々、地域住民の暮らしがひっ迫しているのを痛感している。夕方時点である程度パンが残っている場合、タイムセールを行うのだが、最近は「まだ安くならないの?」と尋ねてくるなど、セール目当ての客が増えた。値下げされるまで1時間半待ち続ける客もいたという。
そうした厳しいやりくりを迫られているのは、店側も同じだ。
オーブンの電源はこまめに落としているが、電気代は増えるいっぽう。午後の時間帯はアルバイトの人数を2人から1人に減らしたが、昨年から最低賃金が引き上げられ、バイトの時給も上がっている。材料費の高騰もすさまじい。一斗缶(約18リットル)の油は以前3800円だったのが8000円に、パン生地に練り込む材料として買うインスタントコーヒーは、1袋1000円からいきなり2200円になった。
統計の数字も、街のパン屋の苦境を物語る。東京商工リサーチによると、2023年度に全国で倒産した「パン製造小売」は、過去最多の37件を記録した。