石原:自分の命よりも大切な存在を失う苦しさは、4年前には抱けなかった感情でした。自分自身が母親になって、沙織里の気持ちが容易に想像できたんです。いまでなければ、できなかった作品だと思います。
青木:僕自身も父親で、母親とは角度が違うかもしれませんが、やっぱり子どもへの思いは強くある。だからこそ、この状況はこたえるし、自分なら持ちこたえられるか?と思ってしまった。実生活から来る想像力がなくては、僕もやっぱりやりきれなかったと思います。
人生で会ったことない
石原:沙織里がどれほどつらいのか、その心はわかる。でも、表現方法がわからなかったんです。沙織里というキャラクターは、私の人生では会ったことのないタイプでした。
監督に「どうしたらいいですか」と言ったら、「イメージモデルになった人がいる」と、その人に会わせてくださった。それがすごく助けになりました。
それでも、ずっと現場ではパニックでした。「わからない、わからない」と言いながら、監督や青木さんに助けてもらって、演じ切った感じです。
―沙織里はSNSに「元ヤン」と書き込まれ、舌打ちをしながら「絶対、許さねえ」と毒づくシーンがある。娘の不在に悲しむ夫婦というだけではない人物造形の深みが、悲劇を他人事でなく感じさせる。
石原:印象的だったのが、いなくなった美羽の誕生日パーティーを、完全なアドリブでやったシーンです。作中では、テレビ局で少し流れるくらいのシーンしか出てきませんが、私はあれでこの夫婦のあり方がわかった気がしました。豊が、沙織里がすごくイラッとすることを、言ったりやったりするんですよ。
青木:覚えてます。けっこう撮影初期ですよね。
石原:カメラが回っているのに誕生日ケーキを食べようとしたりして、「いや、いま食べるときじゃないし!」とか。で、カットがかかった後も、私は沙織里が豊に「あそこで食べるとかいいから!」って怒っている感覚が想像できたんです。あれで夫婦の関係性のベースができたと思います。