千歳空港で飛行機の中から見えた虹
千歳空港で飛行機の中から見えた虹
『ファイアー・アンド・ウォーター』フリー
<br />
『ファイアー・アンド・ウォーター』フリー
『去れよ、去れよ、悲しみの調べ』梶芽衣子
<br />
『去れよ、去れよ、悲しみの調べ』梶芽衣子
『FALL IN LOVE』小林明子
<br />
『FALL IN LOVE』小林明子
『武道館』ボブ・ディラン
<br />
『武道館』ボブ・ディラン

 一週間ほど、札幌に滞在する機会があった。
 今回は、その間のことを日記風に書いてみたいと思う。

 実はわたし、日記を読むのが大好きなのである。それも、他人の日記である。

 日本には、日記を書いたり、読んだりする文化があるということを、ドナルド・キーンの著書『百代の過客』によって知ることになった。いや、ここで日記について書き始めると長くなりそうなので、本題に入ろう。

2015年

11月X日 羽田空港から、千歳空港へと向かう。飛行機は、順調に飛び、千歳空港へ着いた。着陸する飛行機の窓から見ていると千歳空港の滑走路の向こう側に、大きな虹がかかっていた。これは、幸運の兆しか、とちょっとご機嫌になる。
 いつもは、空港からはJRで札幌駅に向かうのだが、今日は時間もあるので、連絡バスで、円山公園にある円山バスターミナルへ向かうことにする。いつもとは違う景色を見ながら、酎ハイと赤ワインを飲んでいるうちに寝てしまう。電車よりは、少し時間が多くかかった。しかし、ここに向かったのには理由がある。このバスターミナルの近くにある古本屋「らくだや」によるためだ。しかし、らくだやは定休日、残念。日をあらためることとする。

11月X日 先日、友人のY島くんから20数年ぶりに電話があった。内容は、くだらないことだったのだが、近いうちに札幌に行くので、その間に会おうとメールしておいた。そこで、さっそく、今夜はどうかと連絡すると、すぐに電話がかかってきて、昼ではどうかという。車で迎えに来るという。昼で車では酒は飲めないなと思いながら、会うことにする。
 今日行こうと思っていた、古本屋の「ブックハウスQ」で待ち合わせ。少し早めに行き、本を眺めていると、突然、目の前に現れた男がいた。Y島くんだ。最後に会ってから20数年経っているのだが、大きく変わった印象はなかった。スーツを着ていた。彼の車に乗り込み、どこに行こうかと話し合う。スープカレーに決まる。

 彼のオススメの店、円山公園にある「スープカレーすあげ3」。食事をしながら、最後に会った20数年前の日のこと、いつの間にか年賀状のやりとりもなくなってしまった理由。お互いの転職の話などを語り合う。わたしが、どうして築地本願寺の中にあるブディストホールという劇場の運営をしているのか、なぜ、ロボット・ジャパンという名でロボット事業を始めたのか、そのロボットの延長で、電動車椅子の開発をはじめたことなどを話す。帰ろうとすると、隣に座っていた二人組の奥様の一人が、「つい小耳に挟んでしまったのですが、電動車椅子作っているのですか?」とたずねられた。ロボット技術を使ってこれまでにない電動車椅子を作っているのだと話していたのを聴いたようだ。お子さんに障害があり、電動車椅子の利用を考えているのだという。日本の家の中でも使用できる小回りのきく電動車椅子を作り、2020年の東京オリンピックの選手村で障害者が働けるような電動車椅子を作るというのが、われわれの「レルプロジェクト」の目標だとかんたんに説明し、名刺をお渡しした。

 その後、Y島くんに、「とうきゅうハンズ」まで車で送ってもらう。目的地は、そのすぐ隣の雑居ビル。ここには、札幌に来るたびによる店「古本とビール アダノンキ」がある。わたしの好きなビールと古本が店名に並んでいる素敵な店だ。しかし、そこにはすぐに行かず、同じビルに入っているクラシックレコード専門店「エコーズ」に向かう。記憶をたどって行ったのだが、思っていたところに店はなく、たぶん間違えたであろうそのフロアーに、別の中古レコード屋さんがあった。去年は、なかったのでは?と思いながら、中を覗くと、クラシックからポップスなど、ま、ジャンルを超えた品揃えだ。店の名は「ファイブ・レコード」。なにを探すでもなく見ていると、店の主人が「どんなものをお探しですか?」と声をかけてきた。

「なんでも聴くんですよね。ジャズとかロックはどんな感じですか?」とたずねると、何枚か出してくれたのだが、どれも持っているか、興味のないものばかりだった。それと、世代が、わたしにとっては少し、新しい。若く見られたようだ。
「あ、できればオリジナル盤か、それに近いものがいいですね」
 オリジナル盤というのは、そのレコードが世に出たときの盤ということだ。本でも初版と言うが、アーティストやスタッフが、自分たちの納得のいくものに一番近いと思われるため、愛好家は多い。
 主人は、フリーのデビュー・アルバム『ファイアー・アンド・ウォーター』を出しながら「これなんか、どうですか? アイランドのピンクラベル。間違いなく、ファースト・プレス」
 わたしがあまり興味を示さないでいると、「これ、今日入ったばかり。ビートルズのシングル盤《ラブ・ミー・ドゥー》のプレス・ミス盤。今日来たばかり。1万円でいいよ。」
《ラブ・ミー・ドゥー》のシングル盤は、リンゴ・スターがドラムを叩いているものと、アンディ・ホワイトが叩いているものがあり。それなら、たいへんなものだな、と思うが、見てみると、横にカラフルな線が描かれた紙ジャケットは、とても新しいものに見える。こういうものは、レコードを入れる袋も重要なのだ。どうも怪しい感じがして止める。あとでわかったのだが、これはビートルズ・デビュー50周年で先日発売されたシングル盤で、このときにもオリジナルの音源と違うものがプレスされて、回収騒ぎになったものらしい。

 すると、「次に、これはどう? 初版だけについているスリーブ付き」
 梶芽衣子の『去れよ、去れよ、悲しみの調べ』というレコードで、もとのジャケットの周囲に巻き付けるように写真が印刷されたものが巻かれている。聞いたことがなく、値段も手頃だったので、購入。さっきのフリーも、少し高いかなと思いながらも購入。入り口の一番前にあった小林明子の『恋におちて―フォール・イン・ラブ―』も500円で購入。
 この3枚を持って、「古本とビール アダノンキ」へ行く。古本をひととおりながめ、宮武外骨の『滑稽新聞』のオリジナルもあり、心が動いたのだが、荷物が多くなるので断念。この店は、クラフトビール、いわゆる地ビールを何種類もそろえていて楽しいのだが、先ほどスープカリーの時にビールを飲んでしまったので、食指が動かず。今回は、飲まずに帰ることとする。

 次に、近くの中古レコード店「レコーズ・レコーズ」に行く。ここには、3年越しで買おうかどうか、迷っているレコードがあるのだが、今年も、まだあるのを確認したが、やはり買わず笑。

 続いて、狸小路の中古レコード店「フレッシュ・エアーズ」に行く。ここでは、ボブ・ディランの『武道館』のポスター付き米国盤を購入。フリーといい、ディランといい、同じものを何枚持っているのか? でも、その盤が作られた状況、たとえば、制作された国、時代などによって音が変わるものだから、面白くって、買ってしまうのだ。

 夕方になったら、居酒屋に行こうと思っているのだが、開店時間までには、まだ早いので、どうしようかと考えていたら、すぐ近くに、「まんだらけ」を発見。時間があったので、じっくりと見る。気になったのは、つげ義春、水木しげる、吾妻ひでおの限定ナンバー入りシルク・スクリーンだ。かなり心が動いたが、通販でもあるようなので、少し頭を冷やして考えることにする。そのほか、自分のこども時代に読んだ漫画本や写真集などが高額になっていると喜び、二束三文だとがっかりしながら見て回る。これは確かに、オタクの聖地だ。コスプレ・コーナーもある。わたしが女の子だったら、コスプレやっていたかな?と考えると、それほど遠い世界ではなさそうだ。

 狸小路にある居酒屋「魚菜」へ行く。すると、同じフロアーにモダン・ジャズ since1961「JAMAICA」という店を発見。今日は、次の予定もあるので、後日来ることにする。
 「魚菜」で独り、北の味と日本の銘酒を楽しんだ後は、ジャズを聴きに、LIVE & BAR「D―Bop」に行き、ボーカル小林美由紀ウィズ河原秀夫を聴く。「東京からベーシスト河原秀夫さんを迎えて、ピアノ本山禎朗、ドラムス伊藤宏樹、ヴォーカル小林美由紀のカルテット」とのこと。こんな感じで、わたしの札幌二日目の夜は更けていくのであった。(次回に続く) [次回12/24(木)更新予定]