歴史的な円安水準が続いている。市場では政府が「覆面介入」したとの見方もあるが、円安基調は変わらぬままだ。AERA 2024年5月27日号より。
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ようやくコロナ禍を抜け出し、久々に海外旅行を満喫したという人は少なくないだろう。もっとも、今年に入ってから為替相場で円安の流れが加速したことによって、現地の物価が異常に高かったことに困惑したという声もよく耳にする。
円安とは、外国の通貨に対して円の価値が低下すること。たとえば1ドル=100円のレートなら、現地のマクドナルドで8.5ドルのビッグマックを食べた場合の円換算金額は850円だ。ところが、1ドル=160円まで円安が進むと、現地の価格が据え置きでも、円換算金額は1360円に跳ね上がる。
海外では日本以上に物価の上昇が顕著で、国内で480円程度のビッグマックが8.5ドルもすること自体、信じがたい話だろう。円安でさらに割高になるため、日本からの旅行者にとってはまさに二重苦だ。金銭的に現地で暮らせる自信がなくなったため、計画していた留学を断念したという人もいる。
160円到達後に反転
日本が大型連休中の4月29日には、1ドル=160円到達が現実となった。しかし、それから間もなく流れは反転し、一時154円台まで円高方向に。その後も157~158円台まで円安に動いたが、またしても急速に円高に押し返すという展開になった。4月29日に2回、5月2日に1回、政府・日本銀行が8兆円規模の為替介入を実施したというのが市場関係者の見立てだ。
為替介入とは、相場の急激な変動を抑えるために、政府・日銀が為替市場で巨額の売買を行うこと。今回は過度な円安を止めるため、市場でドルを売って円を買ったと目されている。関係当局を率いる財務省の神田真人財務官は大型連休明けに、「介入の有無についてコメントするつもりはない」と述べた。だが、一方で神田氏は、「必要があればいつでもやる用意がある」と釘を刺している。岡三証券投資戦略部の武部力也シニアストラテジストは、今回の介入について考察する。
「賃上げが進んでいるのは大手企業に限った話で、圧倒的多数を占める中小企業にはまだ広がっていません。あのまま円安の進行を放置していると、日本はスタグフレーション(不景気下の物価高)に陥り、岸田政権はとても持たなかった。介入を通じて、この水準以上の円安は容認しないとの強い意思表示をしたので、相応の効果があったと私は評価しています。基調としては円安なのですが、さらなる介入に対する警戒感とサンドイッチ状態になり、当面は150~160円のレンジ内で推移することになるでしょう」