次男の明徳君(右)とのスリーショット(明美さん提供)

変わったのは「自分自身」

 自閉症の子どもが走って迷子になってしまったが、マークに気づいた人が、記しておいた連絡先にすぐに連絡をくれたというケースもあった。

 パンダで有名な和歌山の動物園「アドベンチャーワールド」はマークの趣旨に共感し、協賛してくれた。同園が障害児とその家族を無料で招待する日に、マークを無償で貸し出しするなど、輪は広がっている。

 明美さん自身、明ノ心君がマークを付けてから、電車内で席を譲ってくれたり、声をかけてもらう場面が増えたことを実感した。障害があると知ってもらえれば行動は変わる。マークを作った意味はあった。

 だが、明美さんは「変わったのは周囲よりも、自分自身だと感じています」とこの3年間を振り返る。

 今でも、明ノ心君と外出する時は、迷惑をかけないようなルートや場所のシミュレーションはする。ただ、心は以前よりずっと楽だ。どうして良いか分からなくて、泣くこともなくなった。

「ごめんなさいと謝ってばかりいた当時に感じていた、『障害を知ってもらえない世界』は、自分で勝手に作り上げていただけなのかもしれません」(明美さん)

明ノ心くんは言葉は話せないが表情は豊かだ(明美さん提供)

 別の障害や病気など、さまざまな事情を抱える当事者やマイノリティーたちにも目が向くようになった。当事者はどんな苦しみを抱え、何を願っているのか。明ノ心君のおかげで、世界が広がったとも感じている。

 マークを付けてから3年。明ノ心君は現在11歳だ。言葉は話せないが、食事のあとは、ごちそうさまのポーズをして、食器を台所に運ぶようになった。寝ているときも、明美さんの布団がずれていると、そっとかけてくれる。

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「この子」をいつまで使っていいのか