写真はイメージ(GettyImages)
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 排卵のタイミングはあらかじめ予定が立てられないことから、医師から指示のあった日に頻繁に病院に行かなければならず、急に仕事を休まざるを得ないことも妻のストレスになっていた。加えて排卵誘発剤を打つ注射の痛さ、内診を重ねる辛さ、頑張っても全く結果が出ない苦しみ――次第に憔悴していく妻を前に、「自分は何もできない」と思えてもどかしかった。治療の主体はあくまで妻であり、自分は妻が抱える葛藤や苦しさの半分も分からないと思った。

 Aさん夫妻は今、体外受精に臨んでいる。体外受精が4月から保険適用になったことも後押しになった。だが体外受精は人工授精より体への負担が大きいこともあり、妻は病院から帰るとぐったりして横になることが続いている。

「不妊治療について、妻が弱音をこぼすことはあっても、自分が弱音を吐くことは許されないと思っています。妻がこれだけ頑張っているのに、とても弱音なんて言えない。そりゃ男である自分なりの辛さは、もちろんあります。でもそれを口に出して話せる相手はいません」(Aさん)

 不妊治療の主体は、妊娠、出産をする女性であるのは揺るぎない事実だ。だがその陰で、パートナーである男性の心が置き去りにされがちな実態がある。

「不妊治療において、パートナーである男性が葛藤を抱えてしまうことはある。非常にデリケートな問題だからこそ、周囲に悩みを言えず、頑張っている奥さんにも本音を言えないというのが実情だと思います」

 不妊外来で多くの患者と接している千村友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)はこう話す。不妊治療中の女性は、ホルモン剤の影響などもあり、イライラしたり落ち込んだりを繰り返すなど、精神的に不安定になってしまうことも少なくない。そうした妻を前に、「どう接したら良いのかが分からない」という戸惑いの声も聞かれる。不妊体験者を支援するNPO法人Fineを立ち上げ、不妊体験者をサポートする活動を行う松本亜樹子さんも、治療中の男性の孤独についてこう指摘する。

「不妊についての悩みは、女性以上に男性の方が周囲に話せないというストレスを抱えがち。治療中に妻とのコミュニケーションがうまくいかなくなって悩む人も多い。男性が葛藤を抱えても、それを話す先がなく、追い詰められてしまう人もいます」

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