50年前、エジプトがイスラエルを奇襲攻撃した後、石油を武器としてエジプトを支援したアラブ産油国は、今回、ガザの死者が約3万5千人に達しても動く気配はない。むしろ、イスラエルに寄っていく姿勢を見せている。アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンは20年にイスラエルと国交正常化を行い、湾岸の盟主とされるサウジアラビアもガザ戦争前は国交正常化は時間の問題とされていた。

 いま、アラブの民衆はどう思っているのだろう。03年、イラク戦争でバグダッドが陥落し、米軍の占領が始まった直後、サウジアラビアの首都リヤドで外国人住宅コンパウンドを狙った大規模な爆弾テロがあった。その取材でリヤドに入った時、コミュニケーション学の大学教授は「テロには反対だが」と前置きして、こう語った。

「この数年間、私たちの毎晩のテレビのゴールデンタイムはパレスチナ人とイラク人の流血と叫び声であふれている」

 アラブ人は国が違っても、“同胞”の悲劇に無関心ではないのだ。シリア経由でイラクに向かおうとして警察に逮捕された若者にも話を聞いた。

「イラクの民衆が駐留米軍に殺害されたニュースをテレビで見て、3日間眠れなくなり、イラク人を助けるために戦うと決意してイラク国境まで向かった」

 今回のガザ戦争で、米国、英国、フランス、ドイツなど政府がイスラエルを支援している国々で市民による反イスラエルデモが起きているのに比べ、パレスチナ人と同じアラブの国々では動きが見えない。アラブ諸国では政府によってメディアや市民活動が抑圧されているため、危機が表面化した時には、既に手が付けられなくなっている。

 昨年10月7日以降、ガザでは1万3千人以上の子どもたちが亡くなった。白い布に包まれた我が子を抱きしめる親の叫びや嘆きは、すべてアラビア語で発せられている。私は、アラブの人々がどのような気持ちでガザの悲劇を見ているのだろうと気にかかっている。(中東ジャーナリスト・川上泰徳)

AERA 2024年5月20日号より抜粋

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