誰のために戦うのか? 

 鬼の頂点にある鬼舞辻無惨、そして上弦の壱・黒死牟と、弍・童磨。炎柱・煉獄杏寿郎を死にいたらしめた、上弦の参・猗窩座。彼らの強さは異次元にある。パワー、剣技だけでなく、傷を負ってもすぐに再生する治癒力の高さ。鬼殺隊の剣士たちは、文字通り「地獄」を見せられることになる。

 叫び声も涙も枯れ果てるような過酷な戦闘の中で、実弥も伊黒も「大切な人」への思いを秘めたまま、柱として戦い続けるのだが、彼らを心から案ずる者たちもいた。「俺は兄貴を 師匠を 仲間を絶対死なせねぇ」「伊黒さん嫌だ 死なないで!!」…「強い柱」であるはずの自分たちを心配し、救いたいと願ってくれる者たちの悲痛な声を背負いながら、彼らは日輪刀をふるう。鬼がいない平和で平凡な毎日を取り戻すために。仲間が、大切な人が、幸せな日々を送れるようにと。

 実弥と伊黒の若き剣士たちへの厳しすぎる訓練も、辛辣な言葉の数々も、彼らの優しさと思いの強さから発せられるものである。「柱稽古編」で描かれる比較的穏やかな日常のエピソードから、彼らが何のために戦うのか、その精神力を支えるものが垣間見えるだろう。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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