義勇の決断としのぶの覚悟

 炭治郎とカナヲの成長は目を見張るほどだったが、それでもなお、義勇としのぶは彼らを守ろうとする行動が抜けきらない。それは炭治郎とカナヲに「幸せな日常」を与えてやりたいと切に願っていたからだ。

〈幸せの道は ずっとずっと遠くまで続いているって 思い込んでいた〉(胡蝶しのぶ/17巻・第143話「怒り」)

 自分よりも強い姉が、先に柱となり戦闘中に死んでしまったしのぶ。自分を守るために死んでしまった姉を持つ義勇。2人とも「姉の死」によって、どうしようもない喪失感と、自分の力のなさを痛いほど感じながら生きてきた。今度こそは死なせない、という思いの強さが、彼らの「単独行動」の要因となっている。

 柱になってからも、ぎこちない笑顔しか見せることができない義勇と、湧き起こる怒りを抑えながら、周りの人たちのために優しくほほ笑もうとするしのぶは、不器用さが似ている。すぐに黙ってしまうのも、すぐに怒ってしまうことも、彼らの愛情の発露である。

「必ず私が鬼を弱らせるから」(胡蝶しのぶ/19巻・第162話「三人の白星」)

「もう二度と 目の前で家族や仲間を死なせない」(冨岡義勇/18巻・第154話「懐古強襲」)

 もう少し物語が進むと、あるタイミングで禰豆子が彼らのことを思い出す場面が描かれる。義勇は心配そうに禰豆子を見守っており、しのぶは困ったようにではあったが、禰豆子に穏やかに語りかけていた。不器用で厳しい2人の「本当の気持ち」を若い隊士たちも分かっていた。最終決戦に向けて戦いが激化する中で、義勇としのぶは、すべての隊士たちの心の支えとなり続けている。

 義勇の決断もしのぶの覚悟も、彼らの苦悩の半生から生まれたものだ。自分以外にそんな悲しみを与えたくないという苦い気持ちが、彼らを強く成長させた。アニメ新シリーズは、義勇としのぶが秘めている決意と覚悟、それを受けた隊士たちの成長も見どころのひとつとなるだろう。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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