さらに心配なのは、英国は米国のみならずNATO諸国と共同でロシアの脅威に立ち向かうのだが、日本が立ち向かう相手は中国だ。ロシアに比べて、人口で約10倍、経済規模は9倍近い。その大国と戦うには英国のいう2.5%ではとても足りない。5%でも不足するだろう。しかも、アジアで中国と戦う覚悟を示しているのは日本と台湾のみ。韓国は中国との戦争は望んでいない。つまり、共に戦う仲間がほとんどいないのだから、防衛費はさらに膨らむ。
日本のGDPは約591兆円。GDP比で2%から5%に上げるためには、18兆円弱が必要だ。現状消費税率は10%で税収は23.8兆円(2024年度予算)だから、単純計算で1%分が2兆3800億円。したがって、防衛費増加を消費税の増税で賄えば、7%強の増税が必要になる。そんなことになれば、庶民には大打撃だ。
もちろん、欧州諸国でも、増える防衛費負担をどうするかは大きな課題であるが、驚くべきことに、最近では、社会保障費を削減しようという意見が堂々と主張されるようになってきた。
「ロシアが攻めてくる!」といえば、ウクライナの悲劇を目の当たりにした市民も頷きがちだという状況がうまく利用されているようだ。
4月23日配信の日本経済新聞電子版によれば、今年2月には、ベルギーのデクロー首相が、社会保障関係費を削減するのは合理的だと述べ話題になった。デンマークのフレデリクセン首相も同様の主張をしたという。同国では勤務時間の増加で税収を伸ばし、防衛費に充てるために、祝日を削減する法案が23年に可決されたという。「自由の代償」だから仕方ないと正当化されているというから驚きではないか。
英スナク首相の発言にも驚く。殺傷兵器を扱う企業への投資がESG(環境・社会・企業統治)の評価でプラスになることを明確にすると述べたそうだ。その理由が「生活を守ることは倫理的」というのだが、牽強付会の極致ではないか。
それでも、欧州では、国の指導者が、正面から国民に負担を求める姿勢を示している。
米国の最も近い同盟国への格上げを自ら宣言した日本でも、今後さらに拡大する巨額の防衛費増額のために誰かが負担することは回避できない。岸田自民党政権の下では、経団連企業に負担を求めることはタブーだから、結局は一般市民の負担を増やす以外にない。
しかし、「増税メガネ」と揶揄されるのをことのほか嫌う岸田氏は、正面から国民に問いかけることをせず、「これは増税ではない」「実質的な負担増はない」などという詐欺的な説明で乗り切ろうとするのだろう。どんな珍説が飛び出すのだろうか。