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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は「共同親権」可決を受けて、考えたことにについて。

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 外国で結婚し子どもを1人つくった女友だちがいる。カノジョが特定されないように曖昧にしか書けないのだが、結論を言えば、カノジョはまだ幼かった子を連れ日本に帰国した。理由は夫にある。

 夫はとにかくお金を惜しむ人だった。仕事と育児に追われるカノジョが「ベビーシッターを頼みたい」と言ったときも、「ベビーシッターを雇って楽になるのは君なのだから君のお金で雇うなら、どうぞ」と言い放った。夫は家のことはほぼしないが、皿の洗い方、Tシャツのたたみ方、ベッドメイキングの手順全て、夫の思うままに行わなければ家の空気は冷たくなった。夫は社交的な人として知られていたが、カノジョの交友関係には制限をかけた。夫の気に入らない女友だちと会って帰った日など、数日間無視された。

 夫は社会的地位も名誉も信頼も富もある年上の男性だった。誰もがカノジョに「良い男性と巡り合えたね」と羨ましがったというし、実際、カノジョもその結婚を誇りに思っていた。だからこそ、どんなに酷い目にあってもすがりつき、外国で生きていくためには夫が必要だと信じていた。「DV」という言葉もその意味も知ってはいたが、自分がその被害者だとは思わず、誰にも相談せずにいた。それでもある日、文字通り「心の糸がプツンと切れる音がした」のだという。

 そこからは、どう逃げるか、いつ逃げるかだけを考える日々だった。夫は肉体的暴力こそ振るわなかったが、カノジョが夫と違う意見を言おうものなら「私の目を見ろ」と「説教」が始まり、それは何時間にも及ぶのが常だった。とてもじゃないが離婚や別居を切り出せる関係ではなかった。カノジョにできるのは、ただ子を連れて逃げることだけだったのだ。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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カノジョがしたことは