小林製薬の小林章浩社長(中央)は3月29日、会見を開いた

厚労省の非科学的な発言

 そもそもプベルル酸は、1932年に青カビが分泌する物質として初めて報告された。その後、抗マラリア活性を見いだされ、北里大学で研究が進められた。

 プベルル酸についての論文は非常に少ないが、マラリアの治療薬の研究としてプベルル酸を取り上げた論文が2010年と17年に同大の研究者によって発表されている。

 10年の論文によると、プベルル酸は熱帯熱マラリア原虫に対して強力な抗マラリア阻害効果を示した。ヒト細胞に対しては弱毒性を認めただけで、新しいマラリア治療薬として有力な候補とされた。

 17年の論文には、マラリアに感染させたマウスにプベルル酸を皮下投与したことが記されている。すると、「毒性を示し、5匹中4匹が3日目までに死んだ」。ただ、健康なマウスにプベルル酸を投与したわけではないので、死因にマラリアが関与している可能性を否定できない。

 さらに、解剖結果が記されていないので、仮にプベルル酸によってマウスが死んだとしても、腎障害が原因なのかはわからない。当然のことながら、人体への影響はまったく不明である。

 ところが、先月29日、厚労省の担当者は「(プベルル酸は)マラリアも殺すような活性があるので、毒性は非常に高いと考えられる」と語った。

 これに対して浜田さんは「非科学的な発言です」と、強く批判する。

「ペニシリンのように、細菌に対して強い毒性を持っていても、人にはほとんど副作用が出ないカビ毒もある。それなのにマラリア原虫という特殊な生物を引き合いに出して、プベルル酸の毒性を語るというのはあまりにも乱暴です。ミスリードを招きかねない話だと思います」

 実際、厚労省の発言以降、「毒性の高いプベルル酸」という報道をよく目にするようになった。

 この発言について、厚労省に確認すると、

「多少マラリアにかかったマウスにプベルル酸を皮下注射で投与したら死んだ。そのような論文がある、ということを端的に申し上げただけです」

 プベルル酸がこれまでのカビ毒の常識を覆す物質である可能性は排除できないものの、それを証明するにはまださまざまな検証が必要な段階だ。そのため、原因究明には「1年以上かかるのではないか」と、浜田さんは見通しを語った。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)