小部屋に入ると、準備した質問シートに沿って部長が問いかける。そのやりとりを筆記し、気になる点は自分も質問し、深掘りする。事務部門に「OA機器を新しくすると、どのくらい生産性が上がるか」、調理部門には「瞬間冷凍機を入れると、作業効率が上がるか」。そんな質疑から、効果が最も早く出る案をまとめていく。神戸には2度いって、計50日間ほどいた。4月に経営陣が一新されるので、再建案の提出は3月末が目途。期限が迫ってくると、部長が質問をしている隣でパソコンを打つようにした。
全部門の管理職から話を聴くことで、ホテル運営全般の知識を得た。ある部門にとってはよくても、全体からみるとマイナスになることもある。「部分最適よりも全体最適」との経営の視点も、身に付いていく。これが、オークラ東京の立て直しでも活きる。荻田敏宏さんがビジネスパーソンとしての『源流』となった、とする体験だ。
オークラ東京の立て直しで、バブル崩壊で「負の資産」となっていた赤字要因を、次々に消していく。91年初めに千葉県柏市に建てた豪華な独身寮兼研修センターは、運営に年間3億円もかかっていたので売却。運営費だけで年に3千万円以上かけながら、利用者は約千人しかいない静岡県・伊豆高原の社員保養所も、コスト分を社員へ還元したほうがいいと、売った。
バランスシート(BS=貸借対照表)をきちんと読めば、資産の実態はよく分かる。03年3月期で、簿価に残る取得価格よりも時価のほうが下回る「含み損」を、ほぼ一掃した。自前主義も捨て、規模のメリットを出すために茨城県の筑波、新潟市、東京ディズニーリゾートなどのホテルの運営を引き受けて、「オークラ」の名を冠していく。
世界の名声の維持と歴史と伝統の更新へ命名に込めた思い
重荷が取れて、リーマンショックも国内の長期デフレも乗り越え、長年の懸案だった本館の全面改築も実現する。2019年9月、41階建ての「プレステージタワー」と17階建ての「ヘリテージウイング」が開業。世界での名声を維持していく、歴史と伝統を更新していく。オークラ神戸の再建策づくりで始まった『源流』の行き先へ、思いを込めた命名だ。