
――具体的には、どういうことですか?
例えば、彼は晩年によく水浴の絵を描いているんだけど、ギザギザした木目調の水場を絵の中に頻繁(ひんぱん)に登場させているんです。これが、デ・キリコの家の床のデザインそのものだったんです。床を見て、もう驚嘆しましたね。そうか、この寄木細工のような水場の模様は、ここから来ていたのか!って。
――すごい発見ですね!
また、彼は、自宅のベランダのS字形の形態を絵の中に取り込んでいます。様々な絵の中に巨大なオブジェとして持ち込んでいます。これらは、おそらくまだ評論家も気づいていないと思います。ベランダの柵の装飾そのものを描いているのです。生活空間の中のありふれたものを、意味と形を変えて別の場所で登場させている。シュルレアリスムのデペイズマンという手法です。あらためて、デ・キリコはすごい画家だなと思いましたね。今回の展覧会は、デ・キリコの後半生にもフォーカスを当てた、かつてないほど多様性を認めた回顧展になっていますよね。きっと素晴らしい展示になると思いますよ。楽しみにしています。