ジョルジョ・デ・キリコ《神秘的な水浴》1971年 油彩/カンヴァス 50×64cm 個人蔵/※本展には、出品されません(提供:アフロ)/(c) SIAE, Roma & J ASPAR, Tokyo, 2024×X0221
ジョルジョ・デ・キリコ《神秘的な水浴》1971年 油彩/カンヴァス 50×64cm 個人蔵/※本展には、出品されません(提供:アフロ)/(c) SIAE, Roma & JASPAR, Tokyo, 2024×X0221

――彼の挑戦は、非常に先駆的な事例といえるのでしょうか?

 そう思います。それまでは様式を固定化させて、それがいかにも自分のアイデンティティであるかのように主張するのが画家のあり方だったんです。ところがデ・キリコは自分の様式に固執しない。ありとあらゆることをやりだすけれど、すべてがデ・キリコなんです。また、彼は多様化する人間社会の予見者でもあったと思うんですよ。現代社会は多様化を極め、一元的にものを捉えることができなくなりましたよね。デ・キリコは画家としての生き様を通して、人類の行く末を指し示してくれたのかもしれない。

――多様なスタイルを目指したという点では、横尾さんの制作姿勢もデ・キリコと共通していますね?

 そうかもしれません。僕も単一的なものよりは多面化されていくものに対して興味があったので、それでデ・キリコの生き様に共感するのかもしれないですね。

――デ・キリコのように一度世間に認められた作風を変えるのは、難しいものなのでしょうか?

 若くして得た名誉や地位を、自分自身で否定するわけですからね。普通は、苦労して獲得した過去の業績は後ご 生しよう大事にそのまま継続したいですよ。でも、彼はそれを否定した。これ自体がものすごく革命的です。そして、それは非常に孤独な作業なんです。みんな孤独になりたくないわけです。社会とか誰かと常につながっていたいという気持ちが強いですからね。しかし彼はすべてそれを切り捨て、周囲に理解されない中で冒険に乗り出したわけです。美術界に怒りながら生きていった、非常に革新的な芸術家だと思いますね。

――ところで、横尾さんは実際にデ・キリコの自宅にも足を運ばれていますよね?

 今から20年近く前に行きました。映画『ローマの休日』で有名になった階段のあるスペイン広場のすぐ近くにあります。実際に訪問してみて、初めてわかったこともありました。実は、絵の中に描かれていた色々なオブジェは、身近な日常生活の中から着想を得ていたんです。

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