横尾忠則さん(撮影:白石和弘)
横尾忠則さん(撮影:白石和弘)
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「デ・キリコの大ファン」という美術家の横尾忠則さん。この画家が素晴らしいのは若くして確立した画風を捨て、新しいジャンルに挑戦したことだと言います。自らもアップデートしつづける横尾さんに、4月27日(土)から東京都美術館で開催されている「デ・キリコ展」の魅力を聞きました。美術展に合わせて発売された『【芸術AERA】デ・キリコ大特集』より特別公開します。

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――横尾さんはデ・キリコの大ファンでいらっしゃるとお聞きしました。彼の作品では、どんな作品がお好きですか?

 デ・キリコといえば一般的には広場、マヌカン、室内画など初期の「形而上絵画」シリーズが有名ですが、僕が興味あるのは、彼が確立したスタイルを早々と放棄した後の作品群です。彼は前衛的だと評価されながらも、30歳を超えてから歴史をさかのぼり、古典絵画の模写を始めますよね。画学生のように過去の西洋絵画を学びながら、絵の主題と様式を多角的にどんどん拡張していくわけですよ。そのあたりから評価が下がってしまって、デ・キリコは革新的な芸術家としては形而上絵画で終わってしまったと語る評論家も多いんです。でも僕は、彼の真骨頂はむしろここから始まったと見ています。

『【芸術AERA】デ・キリコ大特集』(朝日新聞出版)
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――なぜ、彼は初期に確立したスタイルをやめてしまったのでしょうか?

 絵に対する向き合い方が変わったからでしょうね。最初は主題を探求し、「何を描くか」に興味があったわけですよ。ところが、彼は人生そのものに興味の対象が移ったわけです。つまり、いかに生きるかということに興味を持ち始めた。そのきっかけがティツィアーノの作品に出合ったことで、「何を描くか」ではなく「いかに描くか」ということに目覚めるわけですよね。様式の方に興味を持つわけです。そして、彼はあらゆる様式を探求し、同時に、様式に合った題材を増やしていくんです。馬、裸婦、剣闘士、静物画、風景画など、最後にはどれがデ・キリコかわからないくらい多様化していきました。

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