AERA 2024年4月8日号より

 ただし、経済評論家の塚崎公義氏によると、今回の利上げ、当面は実体経済に大きな影響は出ないという。

「日銀の植田(和男)総裁は非常に慎重に事を進めています。今回の利上げも何回も政策変更を示唆する発言をして市場に十分に織り込ませてから実行しており、その姿勢は今後も大筋で変わらないでしょう。金利が0.1%上がった程度では、実生活にほとんど影響はありません」

住宅ローン、急上昇も

 ならば中期的にはどうか。

「今回の利上げは欧米の歴史的な物価上昇とそれに伴う金利上昇が出発点ですが、その上昇はあれよあれよと言う間の出来事でした。同じことが日本で起きないかと言うと、他人事とは思えません」

 こう話すのは、みずほリサーチ&テクノロジーズの主席エコノミスト、宮嵜浩氏だ。こうした見方から宮嵜氏のチームは昨年11月、日本の「金利のある世界」について一つのシミュレーション結果を公表した。

 前提としたのは持続的・安定的な2%の物価上昇とそれを上回る賃上げ率が実現すること。まさに日銀の利上げ理由を先取りしている。そしてこれに投資が活発化して潜在成長率が現状の0.5%から0.8%に上がる条件をプラスした。主な試算結果が表だ。

 宮嵜氏は「日本経済が強く成長し、金融正常化が進んだ場合の話です」と強調するが、並んでいるのはどれも驚きの数字だ。

AERA 2024年4月8日号より

 26年度の日銀の政策金利は11回の利上げを経て2.8%に上昇、これに伴って長期金利も3.5%まで上がる。預金金利が10年定期で2.5%に上がるのはうれしいが、半面、住宅ローンは、半年ごとに金利が見直される変動型で3.1%にまで上がる。

 注視すべきは次の2点だろう。一つは、普通預金の金利は0.4%に上がるが、物価上昇が2%のため、実質金利がマイナス1.6%になること。つまり、銀行に預金したままでは資産は目減りする。もう一つは、やはり住宅ローンの急上昇だ。みずほの担当者によると、「変動型では未払い利息までは発生しないが、利息の返済が大幅に増える」。ここまで上昇すると、元本の減り具合が鈍ってしまう。

 繰り返すが、このシミュレーションは日本経済が力強く成長することが前提になっている。現実がどう動くかはわからないが、「日経平均、34年ぶり高値更新」とか「賃上げ、33年ぶり5%超え」など「○年ぶり」が続く現状を見ると、少なくとも「上限」として視野に入れておくべき数字であるかもしれない。(編集部・首藤由之)

AERA 2024年4月8日号より抜粋

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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