松田聖子

発音を直すために舌を手術

 それでも、彼女は諦めきれず、平尾昌晃音楽学院の福岡校に通い始める。平尾は彼女の声質と華、そして誰よりも練習熱心なところにほれ込んだが、歌にはまだ出来不出来があったという。

 さらに、講師のひとりからラ行の発音が不明瞭だと指摘され「舌の問題は、歌手として致命傷。プロにはなれない」とダメ出しされることに。だが、聖子は舌の裏側の筋を短くする手術を受け、この「致命傷」を1週間で克服してしまった。

 とはいえ、いくら才能を磨いても、見つけてくれる人がいなければ世に出ることはできない。幸いにも、彼女の「声」に耳を留める人がいた。全国大会の結果に満足できず、出場者の歌唱テープを聴きまくっていたCBS・ソニーの若松宗雄ディレクターだ。

「語れ!80年代アイドル」(KKベストセラーズ)掲載のインタビューによれば「声」に加えて本人にも会って話したことで「この子なら絶対売れるぞ!」と確信。しかし、その勢いで父親を説得しようとしたところ「やっぱりダメだ」と言われてしまう。

 さらに、帰京後、電話をしても「ダメと言ったら、ダメなんだ。もう電話してくるな!」と拒絶され、打つ手なしの状態に。それが数カ月にわたって続き、そのまま断念してもおかしくない状況だったが、若松の気持ちをつなぎとめたのは聖子の一途さだった。

「そのあいだ、2週間に一度くらいの割合で、彼女からは手紙が来ていたんですよ。『歌手になりたい』『頑張ります』そんな思いが、ていねいできれいな字でたくさん綴られていました」

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「歌手になれないなら家出する」