全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年4月8日号にはチバウ文化センター デスクスタッフ・ガイド MAY NEMIAさんが登場した。
* * *
日本から直行便で約8時間半のニューカレドニア。南太平洋に浮かぶ数十の島々からなるフランスの海外領土で、「常春の国」と呼ばれる。巨大なサンゴ礁が広がる、エメラルド色の美しい海でのスキューバダイビングなどを目的に訪れる観光客も多い。
人口は約27万人で先住民のカナックが45%を占める。そのカナック特有の「メラネシア文化」の魅力を観光客に伝えるガイドを20年以上続けている。
本島の北部ポアンディミエで幼少時代を過ごした。そこではカナック語とフランス語の二つが共通言語だった。
父親はカナックの村の学校の教師で、叔父は村長。厳格な母親からは、森や洞窟など神聖な場所での儀式、伝統医学に料理、ダンス、マナーなど、先祖代々から受け継がれてきた生活スタイルや儀式を学んだ。
いにしえからの伝統やカナック文化の魅力を、世界中に伝える仕事に就きたいと思っていた。最初はホテルのレセプションで働いたが、結婚と出産を経て、ガイドの仕事を始めた。
しかし、働いているうちに自分の英語力不足を感じた。「今より流暢に話せれば、より魅力を伝えられるはず」。家族を説得し、1年休職して、単身で豪シドニーに語学留学した。
そのかいあって、ガイドだけでなく通訳としても自分を成長させることができた。今では太平洋諸島を飛び回り、仕事をこなしている。
「遠い国から訪れた人にカナック文化への関心を持ってもらうには、先住民と触れ合うことが一番の近道」と考え、案内する上でも大切にしている。文化センターでは毎回、色鮮やかな民族衣装を身にまとい、来訪者を出迎えて楽しませている。
今ではVIPの来訪者を対応することも増えたが、初めてトンガ王国の王子を案内した時は緊張した。
細やかな気配りを心がけ、王子からかけられた「大変満足した」との言葉は今でも宝物だという。
自分のルーツでもあるカナック文化を伝え、ニューカレドニアに魅了される人が増えてほしいと願っている。
他の国の施設がどんなおもてなしをしているのかにも興味津々で、夢は「日本で美術館巡りをすること」と話す。(ライター・米澤伸子)
※AERA 2024年4月8日号