“心のバリアフリー”を進めたい

日本の映画館の車椅子用スペースでは、多くの場合、隣の席の友人と同じ目線で鑑賞したりポップコーンをシェアしたりできない(※画像の一部を加工しています)

 中嶋さんはこれまで、自身の講演会などで、欧米と比較した日本の映画館の問題点を繰り返し訴えてきた。車椅子用スペースは非常口に近い1列目にあることが多く、画面がゆがんで見えたり首が痛くなったりと負担が大きい。また周りを柵で囲われていて、普通席から離れているので、友人と一緒に来ても疎外感がある。

中嶋さんは18歳~26歳までを米国で過ごした。現地の映画館はシートの隙間に車椅子用スペースがあり、好きな席を選べたという

 今までは、これらの課題を映画館側に伝える機会がなかったが、今回はとんとん拍子に話が進み、電話をした3日後の23日、「シアタス調布」の支配人など担当者3人との意見交換が実現した。

 3人の説明によると、「安全上、グランシアターで車椅子を持ち上げる介助は軽率に行うべきではない」と考えているものの、中嶋さんの声を受け、一部の映画がグランシアターでしか上映されていない運用を見直せないか検討するという。また、グランシアターに車椅子が入れるよう設備面の改善も考えているといい、中嶋さんは「電車の乗り降りなどで使われる簡易スロープを段差に置いてもらえば、車椅子を押してもらうだけで移動できます」などと提案した。

 意見交換をへて、イオンシネマ側からは「今後の改善点が分かり、話を聞けてよかったです」と感謝が伝えられた。中嶋さんも「これからもシアタス調布さんに通わせていただきたい」と応じ、円満で実りある話し合いになったという。

「障害者の常識をぶち壊し、日本の社会や日本人の心をバリアフリーにする」をモットーに発信を続ける中嶋さん

「困っていることがあるなら声をあげないと、誰も気づかないし、何も変わらない。私は引き続き、車椅子でもこんな場所に行ける、こんなことができるっていう姿を発信して、“心のバリアフリー”を進めたいと思っています」

 そんな中嶋さんは、次は「四月になれば彼女は」と「オッペンハイマー」を見に行こうと心待ちにしている。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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