なくしてはならない女のプライド

 いずれにせよ向こうが「別れたい」と言ったとき、どんなに理不尽な理由や不自然なタイミングだとしても、あるいは別れ方に納得がいかなかったり突然ブロックされるみたいな失礼な方法だったりしても、追いかけ、説得し、引き留めることにはかなり慎重になった方がいいというのが私の意見です。それは、その言葉が愛の確認作業だと感じたとしても、あるいは本当に冷めてしまったんだという予感があっても。別れる別れる詐欺を繰り返して、周囲にも「え、また別れたの?」「え、また戻ったの?」と苦笑されるカップルもいますが、そうなりたいかというと微妙ではないですか。相手の理不尽な「別れたい」に対していかに迅速なリリースができるかに、女としてなくしてはならないプライドのようなものが詰まっている気がするのです。

 無論、プライドをすべてかなぐり捨ててでも失いたくない恋、というのもあるかもしれません。椅子を蹴って去った方がかっこいいけど、どんなにダサくても足にすがりつきたい、と思えるほどの男なのだとしたら、それはそれでそんな関係を見つけたことは幸福なことだと思います。ただ、後から振り返って本当にすがる価値のある男ってそうそういないような気もしますが。

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鈴木涼美

鈴木涼美

1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中にAV女優としてデビューし、キャバクラなどで働きつつ、東京大学大学院修士課程を修了。日本経済新聞社で5年半勤務した後、フリーの文筆家に転身。恋愛コラムやエッセイなど活躍の幅を広げる中、小説第一作の『ギフテッド』、第二作の『グレイスレス』は、芥川賞候補に選出された。著書に、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図は読まない』など。近著は、源氏物語を題材にした小説『YUKARI』

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