札幌地下鉄のホームで車両が入ってくると、思わず型式を確認。もたらす風を受けて、試験走行を重ねた日を思い出したのか、笑みが浮かんだ(撮影/狩野喜彦)

 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2024年3月25日号では、前号に引き続き川崎重工業・金花芳則会長が登場し、「源流」である札幌市を訪れた。

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 1994年4月から米ニューヨーク市で、市営地下鉄の新型車両の走行試験と納入の指揮をした。ニューヨークの地下鉄車両は、かつて、いたずら書きだらけで世界に知られた。でも、川崎重工業(川重)の先輩たちが考案した車両のステンレス化と特殊な加工で、80年代前半に納入した車両がいたずら書きを一掃する。

 その評価を継いで受注した新型車両の試験で苦戦していた部隊を、ロンドン駐在から応援に出た。「1年くらい、いることになるかな」と思って家族は日本へ帰したが、駐在期間は13年半にも及ぶ。うち4年余りは、米国法人の社長も務めた。

 その結果、ニューヨーク地下鉄の車両の約半分が、川重製となる。成功には、札幌市での体験が大きい。初めて担当した車両の納入で、戸惑いを経て出した答えが「商売相手側のキーパーソンをみつけて、その要求に可能な限り応えよう」だ。その後の欧米勤務でも貫いた金花流の「ビジネスの極意」で、続いた「出会い」の恵みが支えた。

 企業などのトップには、それぞれの歩んだ道がある。振り返れば、その歩みの始まりが、どこかにある。忘れたことはない故郷、一つになって暮らした家族、様々なことを学んだ学校、仕事とは何かを教えてくれた最初の上司、初めて訪れて多様性に触れた外国。それらを、ここでは『源流』と呼ぶ。

車両を点検した長さ240mの工場油のにおいは同じだ

 昨年12月、札幌市を、連載の企画で一緒に訪ねた。金花芳則さんが「極意」を身に付け、ビジネスパーソンとしての『源流』となった、と挙げる街だ。

「懐かしいなぁ。35年ぶりだ」

 同市厚別区大谷地東にある市営地下鉄の東車両基地に着き、建屋内のテラスへいくと出た第一声だ。納入し、運行ダイヤに組み込まれた車両が深夜に戻ってきたら、ここで点検や改善をした。流れてくる潤滑油のにおいは、当時と同じ。車両の台車の付属機械を分解すると、このにおいが広がった。

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