また、今回デザインも一新された。従来のゴールド/シルバーのリングを廃し、シンプルになった。代わりに、マウント側に梨子地でゴールドのリングを設けた。微妙なアールが美しく、高級感を演出するが、カメラに装着すると目立たないようにもなっている。「TAMRON」の文字も、メーカーロゴとは異なる。こうした性能とは直接関係ないところにもコストがかけられていることもモノとしての存在感を高めている。
SP 35㎜ F/1.8 Di VC USD(Model F012)は、最短撮影距離が0.2mと短く、フォーカスはフローティング機構の採用で至近距離での性能低下がないとアナウンスされている。実写した印象では、絞り開放からコントラストが高く、すかっとヌケた写真になる印象だ。合焦点も繊細な描写で、絞りによる性能変化は感じない。歪曲収差補正も良好。非球面レンズを採用したレンズにありがちなボケのクセがないことも評価したい。やや太めの鏡胴で、重量は480g(キヤノン用)とこのクラスのレンズとしては重量級だが、バランスがいい。
SP 45㎜ F/1.8 Di VC USD(Model F013)は、一般に標準レンズとして販売されている50mmよりもわずかに短い焦点距離。35mm判フルサイズの標準レンズの焦点距離(画面の対角線の長さに等しい)とされる43mmに近い。こちらもフローティング機構を備える。太さは80.4mmと共通だが、若干長くなっている。約540g(キヤノン用)と重いが、レンズ構成は、35mmとも異なり、旧来の標準レンズに多いガウスタイプではなく、レトロフォーカスタイプ。最近のシグマやカール ツァイスのOtus(オータス)などと同様に高性能化を追求している。実写でもこれは確認でき、絞り開放から驚きの高性能で、コントラストが高いうえ、合焦点は針で突いたように線が細く、かつ良質なボケ味と同居する。
どちらも高性能のレンズだが、大口径レンズはカメラの相性によっては位相差AFでわずかにフォーカスにずれが生じることがある。ここぞというときジャストのピントを目指すため、レンズごとにボディー側のフォーカスの微調整をチェックしたり、ライブビュー時のコントラストAFを使用することを念頭に入れたりと、ユーザーにも工夫が必要だ。
ひと昔前まで、レンズメーカーがこの焦点域の単焦点レンズを発売するなど考えられなかったが、ズームレンズ全盛時代を迎えたことで、逆に単焦点レンズの効用が見直される傾向にあることは間違いない。
◆ 赤城耕一