「そこを乗り越えたから、今につながっているのかなと思います。あの時、休んでいたら、もうとっくに相撲自体辞めていたと思います」
稽古もほとんど休まない。その理由を尋ねると、休まないのではなく、休めない面もあるのだという。
「本場所の緊張感の中で相撲を取ろうとした時、自分が一番苦しんだ時の相撲の型にしかならないんです。一日二日、稽古を空けるベテランもいますが、自分はへたくそだから数をこなして、ある程度苦しめないと自信がつかないから休めないんです」
とはいえ、疲労がたまり朝起きるのがつらい時もある。
「そういう時はこのまま寝たいなって思いますけど、それやっちゃうと自分の中で気持ちが途切れるというか、気を張っている意味がなくなってくるんで」
30年間、相撲に対する気持ちを途切れさせずにいるから現役でいられるのだろう。そう問うと、「たまたま、なんでしょうけど」と照れ笑いを浮かべた。
「引きで見ること」
部屋には翔傑さんを含めて7人の弟子がいる。翔傑さん以外は20代が2人、30代が4人。後輩とのコミュニケーションで意識しているのは「引きで見ること」だと言う。
「自分たちはほぼ暴力に耐えて生きてきたような世代。理不尽なことも多かったですが、それが今の自分の支えになっている面もある。でも、同じようなことをすれば今は即アウト。だから、稽古場以外では自分から無理に若い子たちにちょっかいを出すことはせず、今の時代の子たちはこうなんだな、と引きの目線で見るようにしています」
一方で、同部屋の若手の活躍が自身のモチベーションにつながると話す。
「選手兼コーチみたいな感覚もありますから。あれだけ苦しんで頑張った甲斐はあったな、という思いを共有できればいいなと思います」
最高位は幕下4枚目。番付が下がると、今場所が最後になるのかな、との思いがよぎることもある。だが、絶対口には出さない。
「言わない時点でまだ諦めきれていないんでしょうね。もういいやって思えればいいんでしょうけど……。でも諦めたらそこで終わり。自分なりにもう存分にやった、と思えればそれで終わりなんでしょうけど、まだそこにたどり着けていない自分がいるんで」