「キーウから遠く離れて」に込めた思いを語るさだまさしさん(撮影・写真映像部 上田泰世)

ロシアで3月17日に結果が判明する大統領選挙。プーチン氏が再選されるとみられているが、あらためて、ウクライナ侵攻の是非が国際社会から問われている。そんな中、ある日本人歌手の曲がウクライナで注目を集めている。ロシア軍兵士に素手で立ち向かうウクライナの女性。その命がけの抵抗を歌ったさだまさしさんの曲だ。曲は「キーウから遠く離れて」(作詞・作曲 さだまさし)。日本語からウクライナ語へ訳され、その歌詞を読んだ戦時下の人から「胸を打つ」との声もあがる。さださんに、この曲を作った理由と、ウクライナ戦争への思いを聞いた。

【写真】世界が震えた…ロシア兵に立ちはだかるウクライナ人女性

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――ウクライナについての歌を作った理由は。

一昨年2月、戦車が列をなして国境を越えてくる、という時代錯誤の映像に衝撃を受けました。「本当に今起きてることなのか」と。一言でいうと、義憤にかられた、ということですね。その4カ月後にリリースした「孤悲」というアルバムに入っています。

――歌詞は「君は誰に向かって その銃を構えているの」から始まる。「気づきなさい君が撃つのは君の自由と未来」「わたしが撃たれてもその後にわたしが続くでしょう」といったフレーズが印象的です。どんな状況を歌ったのでしょう。

 ウクライナのクリミア半島のすぐ北にある町がロシア軍に占拠されました。その街の様子がスマートフォンで中継され、日本のテレビニュースでも流された。その中で、あるウクライナのおばちゃんが、銃を持った若いロシア兵に詰め寄り、怒鳴っているシーンがありました。「ヒマワリの種をポケットに入れておきなさい。あんたが死んだら、地面にその花が咲くだろう。それを私が見てやるから」と言って。その言葉にも衝撃を受けました。この曲は、ロシア兵に語りかけている歌なんです。彼らが聞いてくれれば、と思います。

ロシア兵に詰め寄るウクライナ人女性=テレグラムチャンネルより

――何を訴えたかったのですか。

「銃を撃つことに何の意味があるか分かっている?」という問いかけですよね。あなたが銃の引き金を引く瞬間、あなた自身の「自由」と「未来」に向けて銃弾を撃っている、と気づきなさいと。

――歌詞の訳は、ウクライナ在住のウクライナ人教員が中心に行い、その後、ウクライナ人の文学に詳しい人が監訳しました。その教員がSNSに訳詩をアップしたところ、ウクライナ人たちから「心に刺さる」「ウクライナと日本を近づけてくれてうれしい」といったコメントがつけられました。

 ウクライナの人を想定して書いた歌ではないですが、僕のお客さんは明らかにこの歌でウクライナとの距離が近くなったでしょうね。コンサートでこの曲を歌うと、客席のみなさん、ウクライナの悲劇はどうにかならないか、という切ない思いで聴いてくれています。演奏後の拍手の音が、しっかりと自分の意志の入った、「心に染みた」という感じなので、それが分かります。

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