ロシアの侵攻から2年が経過するも出口の見えないウクライナ戦争。長引くにつれ注視されているのが、ロシアによる核使用だ。これまでロシアが公開してきた公式文書から、ロシアの軍事・安全保障を専門とする小泉悠氏がその可能性を分析。朝日新書『オホーツク核要塞 歴史と衛星画像で読み解くロシアの極東軍事戦略』から一部を抜粋、引用部分などは削除し、再編集して紹介する。
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核戦略理論から見た現在のオホーツク要塞――「抑止の信憑性」をめぐる問題
特に日本の安全保障環境とオホーツク要塞の関わりについて考えてみたい。まず取り上げるのは核戦略理論と第二次ロシア・ウクライナ戦争の関わりである。
極東からウクライナは遠い。例えば聖域の本丸であるカムチャッカ半島のルィバチー基地からウクライナの首都キーウまでは7500キロメートルほども離れており、この二つの地域に関連性があると直感するのは難しいだろう。しかし、この戦争がロシア連邦という国家が行っているウクライナへの侵略行為である以上、オホーツク海の聖域はやはりそこに一定の役割を持っている。
ロシアはオホーツク海の聖域を含めた核戦力の脅しを用いて西側が実力でロシアの行動を阻止できない状態を作り出し、これによってウクライナへの侵略を可能にしたということである。
だが、それに構うことなく西側が軍事介入を行った場合はどうか。ウクライナに侵攻したロシア軍がNATO(北大西洋条約機構)軍に阻まれた時、ロシアが全面核戦争を始めるだろうとはさすがに考えにくい。かつてマレンコフ首相が認めたように、それは人類の共倒れを意味することになり、結果的にロシアはこのような核による報復を躊躇せざるを得ない可能性が高いからである。つまり、ロシアの核抑止は一方的に西側に対して働いているわけではなく、ロシアもまた西側の核戦力によって抑止を受けているということになる。