
約17年ぶりのモデルチェンジとなる意欲的な新設計の大口径35mm単焦点広角レンズだ。レンズ構成は高級ズームレンズ並みの11群14枚。新開発のBR光学素子を含むBRレンズを採用した。BR光学素子とそれを挟む凸凹のレンズをセットでBRレンズと呼び、蛍石ガラスやUDガラス、スーパーUDガラスなどでは補正しきれない短い波長域(青色側)の光を大きく屈折させることで、大口径レンズに出現しやすい軸上色収差を補正するようだ。BR光学素子の材質は明かされていないが、サンドイッチ構造が目を引く。

新素材に限らず、倍率色収差を補正するUDガラスや、加工に手間がかかる研削非球面レンズなどを組み合わせることで各収差をすべて補正してしまおうという意欲的な光学設計がうかがえる。さらに、大口径広角の宿命ともいえるサジタルコマフレアの補正も追求されている。

このレンズはEOS 5Ds/5Ds Rの超高画素の繊細な画質を生かすために開発されたものだが、大口径単焦点レンズの高性能化の追求に熱心なシグマやニコンの大口径レンズを視野に入れていたのは明らかだろう。特にレンズ構成からして11群13枚構成のシグマの35㎜ F1.4 DG HSM│Artがライバルとみなされていることは、間違いなさそうだ。

デザインも個性的だ。全長は105.5mmと長く、重さは760gで、中望遠レンズに見えるほど。大きさや重さ、コストも度外視で、世界最高性能の35mmレンズを設計しようとした意欲を感じる。最短撮影距離もこのクラスのレンズとしては0.28mと短めで、防塵・防滴構造、フッ素コーティングの採用などEFレンズの中でも上位モデルとされるLレンズとしての資質は十分。被写体や条件によらず、幅広く使える。

今回使ったのはまだ試作段階のレンズで、細かい画質評価は禁じられているが、開放像がそれとは思えないほどコントラストが高く、ディテールの再現性のよい画質で均質性も高い。シャープネスが高いだけでなく、なめらかなボケ味にも注目したい。点が乱れないので、夜景や天体など点光源を点として写したい人にも魅力だ。
高級ズーム並みの大胆な値付けだが、いま世界最高の35mmレンズを1本選べといわれれば、間違いなくこのレンズといえるだろう。
◆ 赤城耕一
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●焦点距離・F値:35mm・F1.4●レンズ構成:11群14枚●最短撮影距離:0.28m●最大撮影倍率:0.21倍●画角:63°●フィルター径:Φ72mm●大きさ・重さ:Φ80.4×105.5mm・約760g●価格:税別28万5000円
(実売27万7020円)

