
働き方改革が進み残業が抑制
改めて確認しておくと、「良いインフレ」とはわれわれの収入が増え、購買意欲も増すことで需要が増加し、結果として物価が上がるという好循環を指す。だが今は物価は上がっているものの、収入は増えるどころか減っている。これは「悪いインフレ」である。
「人件費の抑制だけでなく、社会保険料の増額も実質的な増税ですから、われわれの手取りを減らしてしまっています。個人事業主にはインボイスの実施が追い打ちをかけました。実質賃金が下落しているのですから、消費意欲は減退して当然です。企業は商品増産や設備投資に及び腰となり、供給不足が続いています。今の日本がインフレなのは供給不足が原因です。本来、供給不足によるインフレは、資本蓄積が不十分な発展途上国で見られるものです」
三橋氏によると、1997年、一般企業が取引先である金融機関に預けた預金額は170兆円だったが、2023年には、340兆円にまで膨れあがってしまったという。企業の利益が株主に配当され、余っても投資には向かわなかったことが一目瞭然だ。
今後、日本人の年収は物価上昇に見合う分だけ増えるのか。三橋氏は「今年が正念場だ」と言う。
「『物流の2024年問題』が話題となっているように、今年は働き方改革が進むことで残業が抑制されます。労働者の健康や安全を守る施策だとはいえ、供給不足を悪化させる要因にもなり得ます。供給不足を改善するには、企業の投資を促進させるため、国の手厚いバックアップが必要です。熊本県菊陽町に半導体工場が完成しましたが、国は最大で1.2兆円の補助を行うと発表しています。だからこそ台湾のTSMCは安心して投資を行えたのです。物流だけでなく、国はさまざまな産業に対して同じ施策を行い、全国各地で『第2、第3の菊陽町』を誕生させることが求められています。官民一体となって早急に供給不足を解消しなければ、日本人のさらなる貧困化が猛烈なスピードで進行してしまうでしょう」
日本が“1億総貧困化”に陥らないためには、すぐに手を打つ必要がありそうだ。
(井荻稔)