自動車部品工場の現場(画像はイメージ。記事の内容とは関係ありません)

大企業は似たようなことをしている

 だが、人件費抑制の手段として、多くの大企業が似たことを行っていると三橋氏は言う。その実態は、人件費と株主配当の推移を見ると浮き彫りになってくるという。

「1997年以降のデータを見ると、日本における人件費はほぼ横ばいです。一方、株主に対する配当は7倍に膨れあがっています。この30年間、特に日本の大企業は発言力の強い株主の利益を最優先とし、社員の給与は押さえつけてきました。政権与党である自民党もさまざまな労働規制を緩和し、『安く買いたたける人材』を企業が確保しやすいように後押ししてきました。日産の“下請けいじめ”も人件費抑制と株主配当の増額という視点で読み解くことが可能です」

 企業が利益を増やすには、売り上げを増やすのが王道だ。ところが近年の大企業は原価を削って利益を出すことを選んできた。売り上げを増やすのは難しいかもしれないが、人件費のカットは簡単で確実に利益が増える。下請け業者への支払額を減らすことも同じ効果を生むのは言うまでもない。

「日産の減額により、下請け業者の利益が減少します。経営を維持するため、下請け業者も人件費を削ります。この悪循環で、多くの日本人は低賃金に押さえつけられ、ごく一部の株主だけが利益を得るという社会になってしまいました。実際、日本人における貧富の差は拡大を続ける一方です。ここで注意すべきは、適切な賃上げが行われていないのは中小企業の社員だけでなく、大企業の社員も同じだということです。日産の社員も“被害者”だということです。」

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日本の現状は「悪いインフレ」