魅力的なキャラクターをつくることは大切です。僕が後輩や新人漫画家によく言っていたのが、大切なのは物語や設定ではなくて、「誰」のエピソードか、ということ。同じ噂話でも、誰の話かによって関心度は全く違うでしょう。好きな人の話であれば、どんなに些細なことでも大切な話になります。

絵を見るだけで楽しい

――『ドラゴンボール』は世界的なヒット作になった。このヒットをどう分析するのか。

 一つの理由はアニメになったことだと思います。日本のアニメは国内で制作費を回収できていたので、海外のテレビ局は安価で買え、それを月曜から金曜の帯で繰り返し放送した。日本のアニメはストーリー性でひきつけることもできました。アニメがブレイクすると、原作を輸入し、海外でコミックスが売れるという動きも起こりました。

 ふたつめの理由は、カンフーを扱ったアクション漫画なので、誰もが簡単に理解できたこと。例えば、学園ものだと国によって学校生活の違いがあるなどして理解しづらい。また、人間ドラマが絡むとその地域によって、感じ方が違ったりする。ところが、アクション主体だとそういうわかりづらさがない。「NARUTO―ナルト―」が海外で人気を得たのも、忍者漫画でわかりやすかったからだと思います。

 さらに、今読んでも感心するのは鳥山さんのアクションシーンの上手さです。鳥山さんは空間把握能力が優れていて、今でいう3Dが頭に入っている。1コマ目で人間がこの大きさだとして、2コマ目で大きくなっている。同じ絵でも、この2コマを並べただけで奥から手前に人間がスピーディーに移動した状態を表せます。これを、鳥山さんは本能的にできるんです。天下一武闘会は競技台から落ちたら負けですが、空中は制限なく使える。どの角度からでも人間が描けるのも、鳥山さんならでは。一度読んでストーリーがわかっていても、絵で見るのが楽しいから繰り返し読みたくなるんです。

(構成/ライター・小松香里)

AERA 2021年12月6日号より抜粋

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