そんなAwichが、これまでの人生で一番の挫折だったと感じているのは「妊娠して音楽をやめたこと」だという。娘が生まれてくるという喜びと子育てへの強い気持ちはあったものの、音楽からは身を引いた。誰かに言われたわけでもなく、「デビュー間もない新人が妊娠してしまったら、音楽をやめるのが当たり前」と思っていたからだ。あの時、「やってやりますよ」と一蹴できていたら、こんなに時間はかからなかったかもしれないという後悔もある。
「私が男のラッパーだったらもっと早く、もっと売れていたと思う。私がめちゃくちゃかっこいいことを言っていても、女の歌だから聴かないという人は今もいます。20代の頃は、『自分が男だったら……』と思ったりもしました。でも、こんなに時間がかかったことにも意味があったのかもしれない。40代、50代、60代と年を重ねたときに、『女性だったからこんなにすごいことができた』って言えるようなことをいっぱい経験したい」
メジャーデビュー時のシングル「Shook Shook」では、「まさか女が来るとは」「君臨するとは」と歌った。それほど、ヒップホップの世界は男性アーティストの独壇場だったのだ。それは多くの女性たちが現在の日本社会で置かれている状況と似ているのかもしれない。
自分がどうしたいのか
当時の自分と同じように、キャリアを諦めたり無意識のうちに選択肢を狭めたりしている女性がいたら何を伝えたいか。
「自分の体調や精神のことを一番よく分かっているのは自分だと思うし、体が強くない人もいるはずなので、絶対に仕事も妊娠や子育てもできますと断言はできません。もちろん子どもを望んでいない人もいると思う。でも、これをやれば全員が楽になるはずだと感じているのは、自己理解。自分がどうしたいのか、なぜそう思うかを掘り下げていけば、揺るがないものがきっとあるはず。それを分かってあげることだと思います」
どう生きるかは、あなた次第。答えはいつも内側にあるのだ。(構成/朝日新聞出版・金城珠代)
※AERA 2024年3月11日号より抜粋