夫の死を乗り越えて33歳でメジャーデビューした女性ラッパー・Awich。日本のヒップホップシーンの新時代を切り拓く覚悟を語った。AERA 2024年3月11日号より。
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「自分の生き方はこう。どう生きるかは、あなた次第」と聞き手に委ねる姿勢は、2PACやケンドリック・ラマー、ローリン・ヒル、エリカ・バドゥら、尊敬するアーティストたちから学んだとAwichは語る。
「SNSの投稿一つにしても、それに対するコメントを読んでみないと自分の意見を決められないことってよくあると思う。映画や絵、音楽でも何でも。人のリアクションを見てリアクションを取ることより、自分はどう感じるのか、どんな行動をするのかというアクションを疎かにしたくないと思っています」
一度決めたことに迷ったり、自信を失ったりすることもあるのだろうか。聞くと、「もちろんあります」と拍子抜けするほど即答した。そんな時に戻る「指標」は日記だ。小学校高学年から書き始めた日記を読み返すと、自分のやりたいことや好きなことの輪郭がはっきり見えてくるという。
「10歳ぐらいの時に、音楽ってなんでこんなに胸が締め付けられるんだろうとか、なんで夜って怖いんだろうとか、太陽の力って電気とは違うなとか、書いていました。あとは、麻雀好きな父が家に帰ってこないことが多くて、それに対する怒りとか。大人になっても、モヤモヤすることは書き留めて、根っこを突き止めるようにしています」
人生で一番の挫折
夫の死という大きな悲劇が注目を集めがちだが、Awichを進化させるような出来事はきっと毎日の身近なところに転がっているのだろう。人が見逃して、忘れ去ってしまうような些細なことも、彼女はきっとしなやかに血肉に変えていってしまう。
自分磨きも怠らない。勉強も好きで、大学時代は米国で起業学やマーケティング学を学んだ。インプットとアウトプットのバランスを取るため、毎日の読書は欠かさない。インプットは本からと決めている。愛読書はメンタルトレーニングや睡眠に関する実用書のほか、取材時は琉球王朝を舞台にした池上永一の歴史小説『テンペスト』を読み進めている最中だった。