東日本大震災後、被災地の宮城県気仙沼市で産声をあげた「小さな会社」のドキュメンタリーだ。作るのは手編みのセーター。オーダーメイドタイプで1着15万円と安くはない。
「手ごろな価格で量産」がスタート時の一般的な発想だろうが、目指したのは「価格を下げるより価値を上げる」こと。厳選した毛糸を使い、数カ月かけて1着を編む。完成間近でも編み目の間違いを見つけたら全部ほどくなど、その工程を知ると「晴れ着」価格にも納得がいく。起業から2年で、編み手は当初の4人から30人以上に増えた。中心は地元の50~60代の女性たちだ。編み手の一人は、会社に求めるものは?と問われ、「ずっと、この仕事を続けていたいです」。他の女性たちもうなずく。
 社長でもある著者は、経営コンサルティング会社を経て、ブータン政府で働いていたが、震災を機に帰国。被災した大家族の仮住まい先に下宿しながら起業した。方言などに戸惑いつつも気仙沼が好きになっていく様子は、いわゆるビジネス本にはない活気に満ちている。職場の風景は読み物としても楽しい。

週刊朝日 2015年10月2日号

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