はたして今は、家庭をより豊かにすることや、自分で選び取った大切な家族の幸福を守ることが優先事項となり、それに比べれば他人で代替可能な仕事というものの優先順位が下がった。これは私から見ると何一つ不自然なことではありません。私はよく、結構出世した同世代の友人と、「別に仕事に生きる道を選んだ覚えはひとつもないよね」という話をします。そういうとき我々は暗に、仕事をおろそかにできるほど大切なものや人に出会っていない自分らを憐れんでいることもあります。
世の中を見てみると、仕事にやりがいを持って取り組んでいる人の半分くらいは、別にそれを選んだのではなく、それ以上に大切なものがないが故に消極的に出世した人だと気付くかもしれません。キラキラと仕事に邁進している人もいるのでしょうが、別にそれに対して劣等感を持つ必要はない気がします。誰かと比べて楽になるのであれば、特に仕事より優先するものなど見つかっていないのに一生やる気がない私のことでも思い出してください。
この先、家事などに飽きたらまた仕事が楽しくなるかもしれません。家事を極めていったらマーサ・スチュワートみたいなカリスマ主婦になるかもしれないし、五十歳で起業して大成功するかもしれません。いくら高級寿司を出されたって、満腹時には美味しいとか食べたいとか思えないわけで、そのとき自分にとって大切で欲望を刺激されるものが自分にとって価値のあるものなのだと私は思っています。いま、あなたの直感が仕事じゃなくて家族、と言うのであればそれは圧倒的に正しくて、あなたにとって大切なのだと思うし、仕事なんかより優先したいと思えるようなものに出会えたことを素直に祝福したい気分です。