森見登美彦(もりみ・とみひこ)/1979年、奈良県生まれ。京都大学大学院を修了後、国立国会図書館に勤務しながら執筆を行い、専業作家に。代表作に『夜は短し歩けよ乙女』(2006年)、『宵山万華鏡』(09年)、『夜行』(16年)、『熱帯』(18年)などがある(撮影/小山幸佑)

 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

「天から与えられた才能はどこへ消えた?」──舞台はヴィクトリア朝京都。スランプに陥ったシャーロック・ホームズは寺町通221Bで日々をグータラと過ごしていた。そんななか依頼が舞い込み……。ホームズを主人公にした「パスティーシュ」は数あれど「こんなホームズは見たことがない!」と話題のエンターテインメント『シャーロック・ホームズの凱旋』。森見登美彦さんに同書にかける思いを聞いた。

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 主に京都を舞台にリアルと虚構が交錯する独特の作風でヒットを生み出してきた森見登美彦さん(45)。新作はあのシャーロック・ホームズが京都に現れたという設定だ。

「もともとホームズが好きで一度書いてみたいと思っていたんです。あるとき『ヴィクトリア朝京都』という言葉を思いついて、ロンドンと京都がごちゃ混ぜになったような世界にホームズがいるのはおもしろいんじゃない?と」

 ホームズは寺町通221Bを根城にし、相棒ワトソンと鴨川沿いを歩き、下鴨神社へ初詣に行く。おなじみの登場人物と京都の風景が妙にマッチするおかしみが満載だ。

「本来おかしいですからね。なんでホームズが馬車で下鴨神社に行くんだって(笑)。でも僕にとって京都が一番土地勘があってイメージがしやすい。それに自分にはミステリは書けないと思ったので『そうだ、ホームズをスランプにすればいい!』と」

 そう、本作のホームズは絶賛スランプ中。探偵業を放棄して部屋でダラダラと過ごし、ワトソンにうんざりされている。スランプの苦しみには自分自身を重ねたと森見さん。

「最初はダメホームズのダメな日常、みたいな話でしたが、『スランプとはどこからくるのか?』『どうやってスランプから脱出するんだ?』とだんだん自分の話になってきた。これどうやったら終わらせられるんだろう?と、後半はかなりもがきながら書きました」

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