中国人観光客が盛んに訪日、「爆買い」で日本でも定着した「春節」。今年は派手な花火打ち上げが報じられた。また、旅行は親戚づきあいから逃れる手段でもあるらしい。中国事情に詳しいルポライターが解説する。AERA 2024年3月4日号より。
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中国の旧正月である春節に付き物なのが爆竹や花火だ。爆発音が魔除けになるという考えは中国人の間で古くから存在し、やがて、火薬が一般社会にも出回った明(みん)代以降は、庶民が爆竹と花火で盛大に春節を祝う風習が定着した。
もっとも、火薬の使用は巨大な爆音と煙や匂いを発生させる。現代都市に不向きなのも確かである。中国では改革開放政策が始まった1980年代以降、大都市で花火・爆竹禁止令が出たり、それでも鳴らす人が後を絶たないので禁止が緩んだり、使用可能な地域や日時が指定されたり……と、伝統と現代化の狭間で政策が揺れ動いてきた。
ただ、2009年には北京市内で花火類の使用が解禁された元宵節(ユエンシャオジェ)(旧正月の元日から15日目)に、花火が理由で中国国営放送CCTVの完成寸前のビルが全焼。その後は大気汚染対策も相まって規制が強化され、各地で爆竹・花火の禁止区域の拡大や販売自体の禁止、穏やかな春節を過ごすことを訴えるプロパガンダなどが進められた。
コロナ禍の際には「爆竹で空気が消毒されてコロナ退治できる」というデマが拡散し、各地の地方政府が躍起になって打ち消すという珍事も起きた。さておき、春節の花火類の規制は、つい数年前まで年を追うごとに進んでおり、一昨年の時点では、中国全土の9割以上の大・中都市の中心部と、地方の1千あまりの県級市(小都市)で春節の花火類の点火が完全に禁止されたとされる。
花火解禁に政治的要因
だが、現在は状況が変わっている。今年の春節、中国の各地で人々が派手に花火を打ち上げていた光景は、テレビ報道などでご存じの人も多いだろう。
河南省鄭州市で、マンションのベランダなどから派手に花火を打ち上げる人たちの様子を報じた日本テレビのニュースでは、現在の流行は連続して花火を打ち上げる「機関銃型」だ、といった報道もなされていた。地域によっては禁止されている場所もあるが、数年前と比べれば使用は明らかに緩和されている。
春節の花火解禁の理由は、意外にも政治的な要因もあるとみられる。