日本ではあまり報じられていないが、昨年(2023年)の春節には、各地の民衆が行政機関の前に集まり、「ご禁制」の花火で盛んに遊ぶ姿が見られた。彼らの動機には、その前年末まで続いた厳格なゼロコロナ政策に対するストレスの高まりがあったとみられている。

 ゼロコロナ政策の限界が極限に達していた22年11月には、硬直的なロックダウンや強制PCR検査に反発した民衆や学生が各地で大規模な抗議行動を起こし(白紙運動。抗議者側の呼称は「白紙革命(バイヂィガァミン)」)、一部の若者は習近平の退陣まで主張した。当時の中国共産党は、近年にはまれな大規模な大衆抗議の発生に慌て、あたふたとゼロコロナ政策を取り下げることになった。

 この事件から2カ月あまり後に起きた花火騒ぎも、やはり体制への不満が反映された部分があり、結果、各地で従来の禁止令を緩める地域が続出した。党に批判的な在外中国人の間では、この政策転換が「白紙革命」になぞらえて「煙花革命(イエンホアーガァミン」」(花火革命)と呼ばれた。

 春節の爆竹や花火を好むのは、主に庶民層の人たちだ。一昨年末、海外メディアの白紙運動の報道は、政治スローガンを掲げる「意識の高い」若者たちに注目しがちだったが、実際の人数がより多かったのは、ロックダウンによる生活上の不便に反発して各地で騒いだ庶民だった。もともと、中国の庶民層は習近平を支持する傾向が強かっただけに、彼らの不満の爆発は体制にとってより大きな脅威だった。

 ゆえに、社会不安の広がりを嫌がる各地の地方政府は、花火と爆竹の使用解禁で庶民の機嫌を取る必要を感じたのだろう。2023年12月26日には、国会にあたる全人代の法制工作委員会で「爆竹の完全禁止は不合理」という指摘が出され、国家規模でも春節の花火類使用に対する禁制を緩める方針が示された。

 結果、今年の中国は花火だらけの春節を迎えることになった。

親戚から逃げる手段

 いっぽう、長年の儒教文化ゆえに親族関係が濃厚な中国では、春節に親戚が集まるのも「伝統」である。

 例年、中国では春節を故郷で過ごすために巨大な人の流れが起こり、特に鉄道はパンク寸前となる。駅の混雑は激しく、トイレの衛生やゴミの問題から、さまざまな階層の人が集まることによるスリなどの犯罪の発生まで、極めてカオスな光景が繰り返されるのが、春節前後の風物詩だ。今年の春節の移動者は延べ90億人に達したという推算もある(もっとも公共交通の混雑に辟易したのか、今年はその8割がマイカーを使用した)。

次のページ