浪人中に断念した空手には、ブランクによる衰えに直面するのが嫌で、復帰しようとは思わなかった。だが格闘技の試合を見ていると、「あー、自分もやりたいな」と血が騒ぐ。1年生の終わりに、昔から興味のあったキックボクシングに挑戦しようと決めた。
新たなフィールドでも、天性の才能が爆発。2年経たぬうちにプロデビューを果たした。スポンサーがつき、多くの人を巻き込む責任が肩にかかるが、「楽しいです」と晴れやかな表情を浮かべる。
「空手のときは、試合に出たら毎回優勝候補として期待されて、勝ってもうれしいというより安心してました。でも今は挑戦している感じがある」
つらいことも多かった空手だが、今は感謝している。「戦っていて苦しくて、スタミナも切れてきて、でも体を動かして勝たないかん。そうやって鍛えた忍耐力は受験を乗り越える力になったし、医者になっても活(い)きると思っています」
大学を卒業しても、「医者としての支障にならない範囲」で、格闘技を続けたいという。
未来の“戦うドクター”は、この春4年生。来年には病院での実習が始まる。幼稚園のときに叔父にプレゼントしてもらい、大事にしまっていた名前入りの聴診器を首にかける日は、もうすぐだ。(取材・文/本誌・大谷百合絵)
※週刊朝日 2023年4月7日号