円安で経費が高騰

 そうした“内部事情”に加えて、外的要因も大きい。特に海外アーティスト招聘で問題となっているのが近年の円安だ。

「ほとんどの場合ギャランティーはドル建てで、われわれはいわば輸入産業なので、円安の影響はかなり大きいですね。そもそも輸送費や航空運賃などあらゆる経費が高騰していて、世界的に開催経費が上昇している上に、この円安ですからね。さらに日本は経済力を上げてデフレマインドを転換させないと、娯楽に回せるお金は減る一方なので。そういった諸条件が重なって、大多数の動員が確実なアーティスト以外は、なかなか折り合わない」(一之瀬氏)

 今回話を聞いた伊藤氏と一之瀬氏、両者から共通して聞かれたのが、「バンドのせいではない」という言葉だった。

「バンドは日本に行きたかったとしても、その周りでビジネスをしている人間の感覚はまた違うからね」(伊藤氏)

「バンドのせいというわけではなく、やはり日本側の問題だと思いますね。今のギャランティー、興行規模に合う動員数を見込めるかという点で、ウチを含めて二の足を踏む同業他社はいっぱいいると思いますよ。『日本に来てくれ』というなら、振り向いてもらえる何かを提示しないといけない。それが高額のギャランティーなのか、会場規模なのか。でもそうなると、その原資はどこから?という問題になってきます」(一之瀬氏)

来日待たれる大物も

 日本でメタリカが見たいファンは、今からでも100人単位で仲間を増やす努力をするしかないのかもしれない。伊藤氏は「悲しいけど、現実なんだよ」と話を締めくくった。

 この話は何もメタルに限った現象ではない。新譜が出て来日が待たれている大物という点では、例えばローリング・ストーンズにも言えることなのである。

(ライター・高崎計三)

AERA 2024年2月26日号