大腸外科を専門としたのは、義務年限を終えた2007年、石川県立中央病院に勤務するようになってからだ。上司の伴登(ばんどう)宏行医師は、早くから腹腔鏡手術に取り組んできた医師。その教えを受けながら腹腔鏡手術の腕を磨いた。難関と言われる腹腔鏡手術の技術認定医の資格を、大腸を専門として2年目に、1回で取得でき自信もついた。
「自分の手術に満足できるようになったころ、東京の症例数トップの病院の手術を見る機会があり、衝撃を受けました。ほとんど出血がないのです。腹腔鏡手術はモニター越しなので、出血すると操作しにくくなります。出血を最小限にすることを目指してはきましたが、明らかにレベルが違うと気づいたんです」
病院に勤務しながら、合間をぬってがん研有明病院、国立がん研究センター中央病院や同センター東病院、虎の門病院など症例数トップクラスのさまざまな病院に短期研修に行き、技術のさらなる向上を目指した。
「伴登先生は『勉強してきなさい』と送り出してくれて。技術が向上しただけではなく、外科医のモチベーションの高さに触れたり、人脈が広がったりしたのが大きかったですね。おかげで今は地方の市中病院でありながら、大規模な臨床研究にも参加できています」
14年に現在勤務する厚生連高岡病院(富山県)に移り、19年にロボット手術を導入した。
北陸の大腸がん手術の底上げが現時点での目標
医師になって約25年、北陸を出たことはない。ほかの地域の病院からのスカウトもあるが、今目指すのは、北陸の医療の底上げだ。ロボット手術を導入する病院には、足を運び、指導する。胸に残っているのは、大腸がん腹腔鏡手術の第一人者で、現在北里研究所病院病院長の渡邊昌彦医師にかけられた言葉だ。
「『患者さんが手術のために都市部に行かなくてすむように、北陸の大腸外科医のリーダーとしてがんばってほしい』と。患者さんがどの病院でも根治性、安全性の高い手術を受けられるよう、習得した技術を伝えていきたいです」
(取材・文/中寺暁子)
※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2024』より