本がストーリーの中で重要なアイテムだったり、書店や図書館が舞台だったりする物語。ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞は、そんなコンセプトで創設された公募の賞。三萩せんや『神さまのいる書店 まほろばの夏』は、160作品の中から選ばれた第2回大賞受賞作である。
主人公は女子高生の紙山ヨミ。図書館員をやってる姉のアパートに居候中だ。夏休み、司書教諭のノリコ先生の紹介で、大宮の書店でバイトをはじめたヨミ。ところが、そこは普通の書店ではなかった!
店内にはさまざまな植物が繁茂し、鳥や小動物が駆け回っている。〈これでは植物園か動物園だ!〉
店長のナラブはいった。〈ここに並んでるの、全部まほろ本なんですよ〉〈まほろ本っていうのは、生きている本なんです〉。この世には希に本に宿ってしまう魂があるのだという。〈まほろ本に入った魂にとって、本が肉体の代わりです。(略)だから彼らを触ろうとしても、本以外の場所には触れられません、ちょうど立体映像のようにね〉
半信半疑のまま、ヨミは傷んだ本の補修を手伝うことになるが……。
なんとなくこう、メリハリのない物語だなあ。と感じるのは「まほろ本」の概念が微妙なせい? 単にファンタジーにノレない年齢になったせい? まほろ本の中には人間の姿をした本もあって、不良っぽい金髪の美少年サクヤもそれだった。
ヨミはいつしかサクヤに恋をするが、サクヤは人知れず悩んでいた。〈人間に、なりたくて〉〈俺は、肉体が欲しい。確かな存在になりたい〉
〈まほろ本にも死という概念があってね。破損がひどかったり劣化が激しくなると、人と同じように死んでしまうんだ〉。魂が抜けた本の呼び名は「むくろ本」。〈まほろ本の死体ってところかな〉
本に魂が宿ってて、その魂が肉体を持ちたがるって、いったいなんなんだか。まあ、それでもいいですけどね。素材はたしかに本だけど、結局はラブ・ストーリーだから。
※週刊朝日 2015年9月18日号