この思考の単純化は、様々な問題を生じさせます。老害としてよく挙げられる、「自分のことばかり話したがる」とか「昔の自慢話ばかりしている」、「同じ話ばかりを繰り返す」というのもこれが原因ではないかとみています。話題の中心にいたいというのを実現させるには、自分の話をするしかありません。しかも、加齢によって思考の幅が狭くなっているので「他の人の話を聞いてあげる」などという気遣いをする余裕はなく、直列処理で思ったことをすぐに実行したくなります。加えて、行動がワンパターン化して新たな刺激を受ける機会がほとんどないので、話のタネは一向に増えません。その結果、昔の自慢話を、まわりの空気を読まず、つい繰り返し話してしまうのではないでしょうか。

 いまの話には、老害を避けるためのヒントが隠されています。意識して逆のことをすれば、老害扱いされる機会を減らすことができます。話題の中心に居座ることを望まず、人と接するときには聞くことに徹するようにします。また、話のタネを増やすために、新たな刺激を受ける機会を意識してつくるというふうにです。

 意識していなかったものの、私は最近、これらのことを行っていました。仕事などで人と接するときは、まず相手の話をしっかり聞くことを心がけています。様々な研究会の主宰や、事故や生産の現場の見学などは以前から行っていることですが、これらは新たな刺激を受ける機会になっています。このような活動のお陰で、老害になる行動は最小限に抑えることができているのではないかと思います。

 それでも気を抜くと、すぐに問題行動が出ることはあるようなので気をつけています。とくに気を許せる家族の前では注意が必要です。そこはやはりどんなに備えをしても避けることができない、失敗への対策とよく似ていると思いました。

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畑村洋太郎

畑村洋太郎

1941年東京生まれ。東京大学工学部卒。同大学院修士課程修了。東京大学名誉教授。工学博士。専門は失敗学、創造学、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。02年にNPO法人「失敗学会」を、07年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。著書に『失敗学のすすめ』『創造学のすすめ』など多数。

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