現代の愛猫家からも御礼を。興福寺の英俊さん、ありがとう(※写真はイメージです/gettyimages)

  どういうことかというと、興福寺は由緒ある格式高い寺院。関白や摂政となる摂関家の子弟が寺の代表である門跡になっている。また当時、寺院は世俗の守護や大名が税金をかけたり、境内に立ち入ったりできない「守護不入」という特権をもっていた。いわゆるアジール(聖域)である。

 愛家たちは続々と可愛い猫たちを興福寺に持ち込んで預かってもらった。日記にはないが、寺側はいかほどかの受託料を受け取ったかもしれない。

“日本初”の猫の戒名は「妙雲禅尼」

奈良県・興福寺の五重塔と猿沢池

 あるとき、英俊の愛猫が亡くなった。その悲しみは深く、日記に「うちの子が死んだ。不憫、不憫。『妙雲禅尼』と名付けた。今でも信じられない」と書いた。

 英俊はお坊さんらしく、亡くなった愛猫が成仏できるように戒名を付けてあげたのである。猫の名前は不明だが、雌猫だったことがわかる。おそらく日本史上、もっとも早い猫の戒名である。

(歴史作家・桐野作人)

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