性交を伴わない妊活法が広がっている。シリンジ法は、精子の洗浄、濃縮等を行う人工授精と違い、精液をそのまま膣内に注入する、自宅でできる性交の代替手段だ(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 妊娠=性交ありきという考えが強いが、セックスを伴わない妊活が広がりつつある。専用器具を用いて家庭でできる妊活だ。背景には共働き夫婦ならではの悩みがあるようだ。30代女性の声からイマドキの妊活に迫った。AERA 2024年2月19日号より。

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「シリンジ法を知ってから、妊活が格段に楽になりました」

 こう話すのは、都内で5歳の長男を育てながら働く女性(39)。現在、2人目を望んで妊活中だ。「正直に言えば、セックスが苦手」という女性。長男を妊娠する前は、しないことには、子どもはできないんだから頑張るしかない、と自分を奮い立たせ、子どもが欲しいという一心でちょっと無理して妊活していた。排卵のタイミングを狙って性交する「タイミング法」を1年半続け、長男を授かった時は、「これでしばらくセックスしないで済む」と安堵(あんど)したという。

 女性が再び妊活と向き合うことになったのが、2人目を考えるようになった時のこと。女性は産休育休を経て、2年前に職場に復帰し、仕事と子育ての両立に奮闘している。フルタイム勤務しながらの子育てで、長男を寝かしつけながら一緒に寝てしまうこともしばしば。正直、夜には心底クタクタになっている。残業が多い夫も、深夜に帰宅してビールを飲むと、どっと眠気が押し寄せるのが常だ。夫婦仲は良いが、“確率が高い日”とはいえ、そこからセックスという流れに、どうしてもなれないことが続いたという。

 加えて、タイミング法のプレッシャーによる夫側の問題で、射精まで至らないことも増えていた。当初はそこまで気にせずにいたのだが、妊娠できる可能性が高い日にうまくいかないことが続くにつれ、夫婦ともに落ち込む日が増えた。

 そんなある日、久しぶりに会った友人から聞いたのが「シリンジ法」だった。シリンジ法とは、シリコン製のカテーテル(医療用の管)とシリンジ(注射器)を用いて、精液を膣内に注入する方法。注射器の針の部分が、適度に柔らかく弾力性のあるシリコン製のカテーテルになっており、容器に採取した精液を吸い上げて、膣内に注入する。友人はタイミング法と合わせてこのシリンジ法を試し、妊活を始めて1年ほどで妊娠したという。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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