雪の翌朝は雨。幻想の世界が現実に戻った感じ(写真:本人提供)

 銭湯を出るといよいよ雪は本格的に降り始め、道路にも積もり始めてツルツル滑る中をそろそろ歩く。すれ違った親子連れもそろそろ歩いていて、目が合って思わずお互いニヤリとする。夜に約束があったのだが「ゴメンこんなお天気だから」と断りのメッセージを入れると、みんなそんな感じだから気にしないでとすぐ返事が返ってくる。

 帰宅後はさっそく火鉢用の炭に赤々と火をおこし、鉄瓶に湯を沸かして湯たんぽを満たした後は、網を置いてモチを焼き、海苔を炙り、再び鉄瓶を沸かしてお燗をつけながらゆっくり晩酌。窓の外はいよいよ真っ白。思いついて一人暮らしの父に電話をして少しおしゃべりをする。

 雪の夜は本当に静かだ。時折通るバス以外は車の音もほとんどしない。東京の人は雪に慣れていないので、みな私と同様に家でじっとしているのだろう。すれ違う人が一体何を考えているのか全くわからない時代だけれど、この瞬間はみんな雪のことを考えているんだろうなと思う。そのことになんだかとてもホッとする。

AERA 2024年2月19日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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