元朝日新聞記者 稲垣えみ子

 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 東京に久しぶりに雪が降った。

 朝から雪の予報だったが降り出す気配がなかったのでホッとしていたら、昼から降り出した雨が次第にボタボタとみぞれ混じりになり、慌てて近所の喫茶店に飛び込むと、みる間にコンコンとした雪景色に。「早く閉めるかな。人も来ないし」というママと2人で「綺麗ですねー」としばし外を眺め、ゆっくり温かい紅茶を飲んだ後はいつもの銭湯へ。脱衣所の先客にこんにちはと挨拶すると「あら今日は誰もいないわよー。こんなお天気だから」。

 湯煙でもうもうとした湯に一人で浸かる。

 常連のおばあちゃんたち、どうしてるのかな。家でじっとしてるのかな。確かに滑って転んだら大変だからね。いつも賑やかなので1人はどうも寂しいが、その分、ちょっと失礼して、いつもより余分に熱い湯船に水を足した。長い夜に備えて長い時間じっくり温まらせて頂く。

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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