がん診断を受けて動揺しているときは合理的な選択ができない可能性が高いので大きな決断は避けるべき、とのアドバイスも(写真:gettyimages)

 2人に1人ががんになる時代。しかも、約4人に1人が「働き盛りの世代」だという。治療にはお金がかかる。がん診断で動揺して退職を選ぶ前に、就労との両立を考えたい。AERA 2024年2月19日号より。

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 桜井なおみさんは2004年、37歳の時に乳がんと診断された。治療は、手術、抗がん剤、ホルモン療法。当時、設計事務所に勤めていたが、手術前の検査通院と入院による手術で有給休暇が尽きた。抗がん剤治療が始まると、傷病手当金(病気休業中の被保険者やその家族の生活を保障する制度)が出る休職を選んだ。

 半年後、復職。平均すると週1回はどこかの診療科へ通院しなければならない。薬の副作用で倦怠感や動悸などの症状がある。手術で利き腕側のリンパ節を取ったため腕がだるく、夕方には握力が落ちてパソコンのマウスも握れない。激務の職場で元通りに仕事をすることは困難だった。2年後に退職した。

桜井なおみ(さくらい・なおみ)/自身の経験から「CSRプロジェクト」スタート。後にがん患者の自立を目指す「キャンサー・ソリューションズ」立ち上げ(写真:本人提供)

4人に1人が現役世代

 国立がん研究センターの統計では、2016年にがんと診断された全罹患者約100万人のうち、20~64歳は全体の約26%。約4人に1人が「働き盛りの世代」となる。

 桜井さんが代表を務める働き盛り世代のがん患者を支援する「CSRプロジェクト」は2015年、がん診断時に働いていた20代から60代の患者300人を対象に調査。すると、約2割が依願退職や希望しない異動、転職、解雇にあっており、このうち、26%が診断から1カ月以内に働き方を変更していた。

「現在は国を挙げてがん治療と就労の両立支援をしているので、調査時と状況は変わりつつある。相談できる場所も増えています。しかし一方で、治療に専念するため仕事をやめようと焦って決断してしまう方もいる。特にがん診断を受けて動揺しているときは、合理的な選択ができない可能性が高いので、大きな決断は避けるべきです」(桜井さん)

 最初に足を向けたいのは、がん診療連携拠点病院等に設置されているがん相談支援センターだ。医療ソーシャルワーカーの清水理恵子さん(国立がん研究センター中央病院)、医療ソーシャルワーカーの野村愛さん、乳がん看護認定看護師の齋田久美子さん(ともに中部国際医療センター)が口を揃えたのが、「がんにまつわることなら、なんでも相談してください」。

「仕事との両立では職場に、例えば何を、どのように、どこまで、どんな言葉を選んで伝えるか。患者さんの中には、『理解を得られなさそう』『がんという病気はインパクトが大きすぎる』などさまざまな理由から、がんと伝えたくない方もいます。がんという言葉を使わずに『病気治療で』といった表現で問題ない場合もあります。そもそも患者さんによっては『これを機に働き方や生き方を見直したい』という方もいます」(清水さん)

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