エマニュエル・トッド氏

 家族制度や識字率、出生率に基づき、現代政治や社会を分析し、「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言した、フランスの歴史家エマニュエル・トッド。彼は、終わりの見えないウクライナ戦争が、世界のリーダーとしてふるまっていた西洋諸国が「世界の嫌われ者」であるという事実を明らかにしたと語ります。その真意を、2月13日発売の最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から一部を抜粋・再編して公開します。

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ウクライナ戦争が明らかにした「西側の失敗」

 ――現在の世界情勢について、お聞きしたいと思います。ウクライナでの戦争は依然として続いており、アメリカ、イギリス、EU、日本などの西側諸国は、多額の軍事、財政、人道支援を行っています。

 しかし、報道を見る限り、戦況は依然として流動的です。あなたは著書の中で多くの国が中立的な立場にとどまることさえせずに、ロシア寄りに傾いていると述べています。

 また、あなたは世界的な対立を「西側対東側」ではなく、「西洋対世界」であると表現しています。国際秩序に反するロシアの侵略に、怒りを感じている日本人にとっては、非常に驚くべきことでしょう。

 こうした動きを踏まえて、現在の国際情勢をどのように受け止めていますか。また、この戦争は国際秩序のどのような変化を象徴していると思いますか。

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エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd) 歴史家、文化人類学者、人口学者。1951年フランス生まれ。家族制度や識字率、出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春、英国EU離脱などを予言。主な著書に『グローバリズム以後』(朝日新書)、『帝国以後』『経済幻想』(藤原書店)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』『第三次世界大戦はもう始まっている』(文藝春秋)など。

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ロシアは悪人、ウクライナは善人