会話が成立しているようで全然聞いていないことも……(※写真はイメージです Getty Images)

 加齢によって、周囲に迷惑をかけたり、トラブルを生む「老害」。その多くはコミュニケーションに問題があると指摘するのは、東京大学名誉教授で失敗学の提唱者・畑村洋太郎氏だ。畑村氏は自身の老化をきっかけに、当事者の視線での老いを分析。自らの経験を踏まえて、なぜ老人のコミュニケーションがトラブルになりやすいのか原因を探った。畑村氏の新著『老いの失敗学 80歳からの人生をそれなりに楽しむ』(朝日新書)から、一部を抜粋・改編して紹介する。

【図】会話がかみ合わないときのもう一つの可能性

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「わかってもらう努力」のエネルギーが失われていく

 私にも身に覚えがありますが、歳を取ってくると正しく伝える努力を惜しむようになるのです。誰かになにかを正しく伝えるのはたいへんで、ちゃんとやろうとすると多大なエネルギーや、わかりやすく伝えるための方法論が必要になります。真面目にやろうとすると体力と知力を大いに消耗するので、つい楽をしたくなるのです。正しい手順を踏まないショートカットの道で、要するに手抜きをするのです。

 これは長く生きて、いろいろな経験をしているからできることです。なんでもそうですが、ある知恵や技術、テクニックなどを獲得するときには、最初は生真面目に正しい手順を学びます。そして、しばらくはそれを守っていますが、長く続けているうちにいろいろと経験すると、どこでショートカットができるか体験的にわかります。それを実際に試して成功すると、味をしめて次から手抜きをするようになるのですが、世の価値観では、これは「効率化」と言って「よいこと」として扱われます。

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畑村洋太郎

畑村洋太郎

1941年東京生まれ。東京大学工学部卒。同大学院修士課程修了。東京大学名誉教授。工学博士。専門は失敗学、創造学、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。02年にNPO法人「失敗学会」を、07年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。著書に『失敗学のすすめ』『創造学のすすめ』など多数。

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