とくに自分の言うことをよく理解してくれる特別な関係にある人に対しては、この手抜きがひどくなります。私の場合も気付かないうちにそうなっていました。議論のときに「途中の説明を省くことが増えている」とまわりから指摘されることがしばしばなのです。

 それでも相手に真意が伝わっているので、自分ではひどい手抜きをしている意識はありません。しかし、付き合いの浅い人にはうまく伝わらないことがあります。そういうとき、たまたま同席していた特別な関係の人が「いまのはこういう意味ですよ」と通訳でもしているかのようにその人に教えているのを見て、「なるほどふつうはこれでは伝わらないのか」と考えさせられることが増えました。

 失敗学など私の研究に関する話は、この数十年の間にどんどん内容が深まっています。その過程をずっと見てきた人には、「あれのそれ」という曖昧な言い方や、結論をストレートに話しても理解してもらえますが、馴染みのない人には伝わりにくいようです。以前はそういう人にも一から丁寧に説明することを心がけていましたが、それには多くの時間がかかります。基本的なことはたいてい本にまとめているので「それを読んで理解してください」という感じで、次第にショートカットをするようになったのでしょう。その手抜きが歳を取ってからは、より顕著になっているということのようです。

 仕事上の付き合いのある人に対してもこんな感じですから、より親しい関係の家族や友人などへはさらに手抜きがひどくなる傾向があります。実際、その件で家族から文句を言われることが増えました。

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興味のない話は頭に入らない